先日、都内で複数の不動産物件を所有する社長から、少し焦った様子でこんな連絡が入りました。「SPC(特別目的会社)を使って節税しているんですが、同じような手法を使っていた知人に税務調査が入ったと聞いて……うちは大丈夫でしょうか?」

不動産SPCを活用した節税は、うまく設計すれば年間数千万から億単位の効果が出ることもある、非常に強力な手法です。だからこそ税務署も注目しています。「大丈夫かどうかはSPCの実態次第」というのが、率直な答えです。

なぜ今、不動産SPCが調査対象になっているのか

SPC(特別目的会社)とは、特定の不動産を保有・運用するために設立する法人のことです。個人では難しい経費計上、損益通算、所得分散などが活用できるため、資産家や不動産投資家の間で広く使われています。

節税スキームとして普及するにつれて、国税庁の調査も当然強化されてきました。不動産関連法人への実地調査件数は、近年一貫して上昇トレンドにあります。「みんなやっているから大丈夫」という感覚は、今の税務環境では通用しなくなっています。

調査が増えている背景には、税務署側のデータ分析能力の向上もあります。法人設立時期と節税効果の相関、資金移動の不自然なパターンなど、かつては目視で追えなかったものが、今はシステムで検出できるようになっています。

最も危険な「実態なきSPC」という判定

税務署がSPCに対して最も厳しく問うのが、「この法人に実態があるか」という点です。

見た目は法人でも、実際の意思決定や管理が全て個人によって行われ、契約書も議事録も整っておらず、法人口座と個人口座が混在している——そういった状況が積み重なると、税務署は「これは節税目的だけの名目上の法人だ」と判断することがあります。

この判定が下ると、法人を通じて計上していた経費や損失が全額否認されます。何年分もまとめて否認されることも珍しくなく、追徴課税の金額は一気に膨らみます。

さらに深刻なのが、「悪質な租税回避」とみなされたときの重加算税です。通常、申告漏れへの追徴税率は10〜15%程度ですが、重加算税が加わると**35%**になります。数年分の経費が否認され、重加算税まで乗ってくると、追徴課税が数億円に達するケースも実際に起きています。

「そんな大げさな」と思うかもしれませんが、億単位の節税を行っていたなら、否認された場合の追徴額もそれに見合ったものになります。

調査をクリアにする3つの対策

では、税務調査が来たときに正面から対応できるようにするには、何を準備しておけばよいのか。重要なポイントは3つです。

① SPC設立目的を文書として残す

「なぜこのSPCを設立したのか」という経済合理性を、書面で証明できる状態にしておくことが基本中の基本です。事業計画書、取締役会議事録、設立時の顧問税理士との相談記録など、設立の目的と根拠を示す書類が揃っているかどうか、まず確認してみてください。

② 資金移動・契約を書面で裏付ける

SPC(法人)と個人の間でお金が動く場合、その根拠となる契約書が必ず必要です。賃貸借契約、管理委託契約、役員報酬の決定書類、金銭消費貸借契約など、取引の一つひとつに書面の根拠があるかどうかを確認してください。「口約束で動いていた」「領収書の整理が後回しになっている」という状態は、調査のときに大きなリスクになります。

③ 定期的に税務リスクを棚卸しする

節税スキームは一度組んで終わりではありません。法改正、国税の調査方針の変化、ビジネス環境の変化などによって、最初は問題なかった構造が危うくなることがあります。少なくとも決算ごとに、顧問税理士とSPCの税務リスクを確認する時間を取るようにしましょう。

「自分は大丈夫」は最も危ない思い込み

税務調査で追徴課税を受けた社長の多くが、後からこう言います。「まさか自分のところが対象になるとは思っていなかった」と。

SPC節税は正しく使えば強力です。しかし、「設立した」「書類は税理士任せ」「詳細は把握していない」という状態が続いていると、実態の整備が後回しになりがちです。そのまま数年が経って調査が入ったとき、対応できる書類が何もない——というのが最も危険なシナリオです。

今すぐ全部を見直す必要はありません。ただ、「設立目的の書類はあるか」「契約書は揃っているか」の2点だけでも、今期中に確認しておいてください。不安があるなら、今の顧問税理士に「SPC全体のリスク確認をしたい」と一言相談するのが、最善の一手です。時間が経てば経つほど、過去の取引を遡って整備するのは難しくなります。気づいた今がちょうどいいタイミングです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。