先日、年商10億円規模の不動産会社を経営するA社長からこんな相談を受けました。「税理士から分社化を勧められているんだけど、正直なところ何がどう得なのか、よくわかっていなくて」と。
この疑問を持つ社長、本当に多いです。「分社化=手続きが増えて複雑になる」というイメージが先行して、具体的なメリットが見えないまま放置されているケースが後を絶ちません。
でも、仕組みを理解してしまえば、話はシンプルです。ポイントは「軽減税率の枠」と「消費税の免税」、この2つです。
法人税の「800万円の壁」を知っていますか
法人税には「軽減税率」という制度があります。中小法人の場合、課税所得800万円以下の部分には15%の低い税率が適用されます。一方、800万円を超えた部分には通常の23.2%が課税される。
この差、8.2ポイントです。
たとえば、1社で所得が1,600万円あるとします。800万円分は15%、残り800万円分は23.2%。でも、これを2社に分けて、それぞれ800万円ずつ所得を計上できたとしたら、両社とも全額に15%が適用されます。
単純計算で、800万円×8.2%=65.6万円の節税です。事業規模が大きくなるほど、この差は無視できません。
設立2年間は消費税まで非課税になる
分社化のもうひとつの旨みが、消費税の免税です。
新しく法人を設立すると、原則として最初の2事業年度は消費税の納税義務が免除されます。消費税率が10%の今、事業規模によっては数百万円単位のメリットになることも珍しくありません。
特に、M&Aを控えていたり、新規事業の立ち上げに合わせてグループ再編を行う場合、この初期2年間の免税期間を活用した設計をよく見かけます。消費税コストを抑えた状態でスタートできるのは、資金繰りの面でも大きな安心感があります。
ただし、落とし穴もある
ここで重要な注意点をひとつお伝えします。
親会社の前期課税売上高が5億円を超えている場合、新設した子会社の消費税免税が適用されないことがあります。「特定新規設立法人」に関するルールで、グループ全体の資本関係や売上規模が判定基準になります。
持株比率が50%超の関係会社がいると、そのグループの売上規模が子会社の免税判定に影響します。「消費税は免税のはずだったのに、申告してみたら課税だった」という失敗は、事前の確認で防げます。
分社化のストラクチャー設計は、必ず税理士・弁護士と連携して進めてください。自己判断で進めると、思わぬところで課税リスクが生まれます。
分社化は「大企業の話」ではない
分社化と聞くと大企業の話に聞こえますが、年商2〜5億円規模の中堅・中小企業でも十分活用できる戦略です。
複数の事業を抱えていたり、将来的に事業承継やM&Aを視野に入れているなら、今のうちから法人構造を整えておく価値があります。グループ内での所得分散と、設立初期の消費税コスト削減を組み合わせると、節税効果は想像以上に大きくなるケースもあります。
まだ1法人で全事業を抱えているなら、一度「分社化した場合の試算」を税理士に依頼してみることをおすすめします。数字を見てから判断しても、遅くはありません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。