先日、ある社長からこんな相談を受けました。「今期、役員賞与を5000万円出そうと思っているんですが、全額経費になりますよね?」。私は少し間を置いてから、こう答えました。「正しい手順を踏んでいれば、なります。でも、踏んでいなければ1700万円以上の追加税負担が発生しますよ」。
電話口の社長が黙り込んだのを、今でもよく覚えています。役員賞与をめぐる税務リスクは、知っているようで意外と知らない方が多いテーマです。
役員賞与は、原則として経費にならない
従業員へのボーナスは、普通に損金(税務上の経費)として認められます。ところが、役員への賞与は原則として損金不算入です。払っても払っても、会社の課税所得は減らない。
なぜかというと、役員賞与で利益を自由に調整できてしまうと、法人税が意図的に圧縮できてしまうからです。税法はその抜け穴を塞ぐために、役員賞与を原則「経費として認めない」と定めています。
「事前確定届出給与」という合法の切り札
ただし、正規の方法があります。「事前確定届出給与」という制度を使えば、役員賞与でも全額損金にできるのです。
仕組みはシンプルです。「いつ・誰に・いくら払うか」を事前に税務署へ届け出て、その通りに支払えばOK。これだけです。5000万円の役員賞与も、この手順さえ踏めば全額損金になります。実効税率34%で計算すると、約1700万円の税負担を削減できる計算です。
「1円でも違えば全額否認」の現実
ここからが、私が声を大にして伝えたい部分です。
届け出た金額と実際に支払った金額が1円でも違えば、全額否認になります。5000万円と届け出て、4999万9999円しか振り込まれなかった——この1円の差で、損金算入はゼロ。税負担は1700万円以上増えます。
支払日のズレも同じ扱いです。届出に「3月31日払い」と書いたのに、実際の振込が「4月1日」になっていた。たった1日のズレで、数千万円が全額否認されたケースが実際に起きています。「1日くらい大丈夫だろう」という感覚が、最悪の結果を招くことがあるのです。
届出期限は思っているより早い
もう一つ見落としがちなのが、届出のタイミングです。
提出期限は次の2つのうち早い方が適用されます。
- 職務執行開始日(通常は定時株主総会の終了日)から1か月以内
- 会計期間の開始日から4か月以内
3月決算法人を例にとると、4月1日から4か月後の7月31日が一つの目安です。ただし株主総会が5月末に終わっていれば、そこから1か月後の6月末が期限になります。「まだ先の話だから」と後回しにしているうちに期限が過ぎてしまう、というのは珍しい話ではありません。
管理は「仕組み」で防ぐ
届出を出した後の管理も大切です。届出書を提出した時点で、経理担当者や顧問税理士と「いつ・いくら振り込むか」を文書で共有しておく。振込前に金額と日付を必ず突き合わせるチェックリストを作っておく。これだけで、1700万円規模のリスクが防げます。
社長自身が毎回細かい数字を確認するより、「ズレが起きない仕組みを作る」という発想で動くのが現実的です。
今期の届出、まだ間に合いますか?
事前確定届出給与は、正しく使えば非常に強力な節税手段です。しかし「1円・1日のズレで全額アウト」という厳しさを知らずに使うと、節税どころか税負担を増やしかねません。
今期の役員賞与をまだ設計していないなら、今すぐ顧問税理士と届出のタイミングと金額を確認しておくことをお勧めします。期限は、思っているより早くやってきます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。