先日、ある経営者仲間からこんな話を聞きました。顧問税理士が変わったタイミングで、役員賞与の届出が引き継がれていなかった。気づいたのは税務調査が入ってからで、1億円の役員賞与が全額損金不算入となり、追加の税負担が3,000万円を超えた——というものです。
事業は順調で、利益を役員に還元しようという前向きな判断が、手続きのミス1つでこういう結末になる。それが役員賞与の恐ろしさです。
6月は多くの3月決算会社で役員賞与の支給シーズン。今回はこのタイミングに合わせて、絶対に知っておいてほしい話をします。
役員賞与は「原則、経費にならない」が出発点
従業員への賞与は、支払った期の損金として問題なく処理できます。でも、役員への賞与はまったく別の話です。
税務上、役員賞与は原則として全額損金不算入。つまり、実際に払った費用なのに、税務上は経費として認められません。理由は単純で、役員は自分で報酬を決められる立場にあるからです。決算直前に利益が出そうだと分かってから賞与を増やして税金を圧縮する——そういった操作を防ぐために、このルールが設けられています。
損金にする唯一の突破口
役員賞与を損金として扱うために認められている方法が、事前確定届出給与です。
「いつ・誰に・いくら払うか」を事前に税務署へ届け出ることで、支払った賞与を損金にできます。届出のタイミングは、株主総会などで賞与を決議した日から1ヶ月以内、かつ支給日の前日まで——のどちらか早い日が期限です。
この届出が正しく出ていれば、役員賞与も節税に使える立派な手段になります。逆に言えば、届出が出ていなければ、どれだけ誠実に支払っても税務上の経費にはなりません。
「1円のズレ」「1日のズレ」で、全額アウト
ここが最も重要なポイントです。
事前確定届出給与は、届け出た内容と実際の支払いが完全に一致していなければなりません。金額が1円でも違えば全額損金不算入。支払日が1日でもずれれば全額損金不算入。「ずれた分だけ按分して否認」ではなく、全額一括で否認されるのが税務上のルールです。
役員賞与1億円を届け出通りに払ったつもりが、振込処理の関係で支払日が翌日になってしまった。この場合、1億円が丸ごと損金不算入になります。法人実効税率34%で計算すると、追加の税負担は約3,400万円です。役員本人が所得税を払っているにもかかわらず、会社側でも税金が追加で乗ってくる、二重のダメージです。
6月は特に失敗が起きやすい
3月決算の会社は5〜6月の株主総会後に役員賞与を支給するケースが多く、まさに今が「ミスが起きやすいシーズン」です。
よくある失敗パターンを挙げると:
- 顧問税理士が変わったタイミングで届出の引き継ぎが漏れた
- 社長が「少し上乗せしてあげよう」と直前に金額を変更した
- 賞与から各種控除を差し引いた手取り額を届出金額と比べてしまい、ズレを見落とした
- 支払予定日が土日と重なり、翌月曜日に振り込まれた
どれもありそうな「うっかり」ばかりですが、税務署は意図の有無を問いません。届出通りでなければアウト、それだけです。
支給前に確認してほしい3つのこと
支給前に、顧問税理士と一緒に次の3点を確認してください。
届出書の控えを実物で確認する 提出済みの控えに税務署の受付印が押されているか確認します。「先生に渡した」だけでは不十分です。提出まで完了しているかを直接確認しましょう。
届出金額と支給額を突き合わせる 支給総額(税引前・控除前の金額)で比較します。手取り額と混同すると、控除項目の分だけズレが生じます。
支払日に休日が重なっていないか確認する 届出書に記載した日付と実際の振込日を照らし合わせ、祝日・土日の影響がないかを確認します。「いつもと同じ月末払い」でも、曜日次第で翌月にずれるリスクがあります。
事前確定届出給与は、正しく使えば有効な節税手段です。ただし、ルールが非常に厳格なため、確認不足の1つが数千万円単位の損害につながります。「今年も問題ないだろう」という思い込みが一番危険です。支給前の5分間の確認が、会社を守ることになります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。