先日、都内でM&Aを手がける経営者からこんな話を聞きました。「年商15億になってから、税金の支払いが毎年2億を超えている。もう少し何とかならないのか」と。

確かに、事業が成功すればするほど税負担は重くなります。日本の所得税は累進課税で、最高税率は住民税と合わせると55%。つまり、個人で受け取った利益の半分以上が税金として消えていく計算です。

でも、ある一定規模以上になった経営者には、合法的に実効税率を大幅に下げる構造が存在します。今日はその「持株会社×海外法人」の仕組みについて、できるだけわかりやすくお伝えします。

持株会社が節税の起点になる理由

個人が事業利益をそのまま受け取ると、前述の通り最大55%の税率がかかります。一方、法人税の実効税率は約23〜30%。この差を活用するのが、持株会社を使った節税の出発点です。

事業会社の株式を持株会社(ホールディングス)に移し、利益を持株会社で受け取る形にすると、まずここで税率差のメリットが生まれます。さらに、グループ内の配当は一定条件を満たせば「受取配当等の益金不算入」として非課税扱いになるため、グループ全体の税負担を抑えやすくなります。

これだけでも効果はあるのですが、さらに大きな節税を狙う経営者が次に組み合わせるのが「海外法人」です。

シンガポール法人を使った利益移転の仕組み

シンガポールの法人税率は17%。日本の約30%と比べて13ポイントほど低い水準です。そして、この税率差を合法的に活用できる仕組みが存在します。

具体的には、日本の持株会社が保有する「ブランド」「特許」「ソフトウェア」などの知的財産を、実体のあるシンガポール法人に移転します。そのシンガポール法人が、日本の事業会社に対してライセンス料を請求する形にすることで、日本側では費用が発生し、利益がシンガポール側に移転します。

シンガポール法人は17%の法人税を払えばいい。日本法人はライセンス料を経費にできる。グループ全体で見ると、税負担が大きく圧縮されるわけです。

年間利益が3億円として、この構造で実効税率が30%から17%に下がれば、差額は約3,900万円。10年続ければ3億9,000万円の違いになります。

「紙だけの会社」は即アウト。実体要件が命

ここで絶対に忘れてはいけないのが、「CFC税制(外国子会社合算税制)」です。

簡単に言うと、「ペーパーカンパニーを使って利益を海外に逃がすことは認めない」という税制です。実態のない海外法人に利益を移しても、日本の税務署はそれを「日本法人の利益」とみなして課税します。

「実態がある」と認められるための主なポイントはこうです。

  • 現地に実際のオフィスがある
  • 現地に常駐する従業員がいる
  • 現地で実際に意思決定が行われている
  • 書類上だけでなく、実際の業務活動がある

シンガポールに形だけのバーチャルオフィスを借りて終わり、では完全にアウトです。税務調査で否認されると、追徴課税と加算税で想定外の金額を請求されることになります。

このスキームが「合う人」と「合わない人」

正直に言うと、この構造が有効に機能するのは、個人年収で3億円以上、あるいは会社の年間利益が5億円以上のレンジです。

それ以下の規模だと、海外法人の設立・維持コスト(現地の会計費用、スタッフ、毎年の申告費用など)が節税額を上回ってしまうケースが多い。現地に実態を作るための初期投資も、決して小さくありません。

逆に、年収5億・10億の経営者にとっては、このスキームを整備することで毎年数千万〜数億円単位の税負担差が生まれます。専門家への報酬を差し引いても、圧倒的にペイする計算になります。

相談するなら「国際税務」の専門家一択

このスキームは、日本の税制・現地の税制・租税条約・CFC税制を同時に理解していないと正しく設計できません。国内節税に詳しい税理士でも、海外スキームには疎いケースが少なくない。必ず「国際税務」を専門とする税理士か、国際的なネットワークを持つ事務所に相談してください。

「合法か違法かわからないまま進める」のが一番危険です。スキームの設計段階から専門家を巻き込んで、税務調査にも耐えられる構造を作ることが重要です。

年収が一定規模を超えてきたなら、一度「持株会社×海外法人」の可能性を真剣に検討してみてください。正しく設計されたスキームは完全に合法であり、多くの大手企業も実際に活用している節税手法です。税金を減らすことに、後ろめたさを感じる必要はまったくありません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。