先日、ある経営者からこんな連絡が届きました。「シンガポールに持株会社を置いて、グループ全体の税負担を抑えてきたんですが、最近顧問税理士から『そのスキーム、もう通用しないかもしれない』と言われて……」

この社長、年商は200億円超。数年前から香港やシンガポールを経由した税務構造を組み、実効税率を10%台前半まで抑えてきました。当時は合法的な選択肢でしたし、実際に機能していました。でも、世界はここ数年で大きく変わっています。

2024年、日本も加わった「世界一斉課税」

グローバルミニマム税という言葉を聞いたことはありますか?

OECDが主導し、G20各国が合意した国際課税の新ルールです。一言で言うと「どの国に法人を置いていても、実効税率が15%を下回るなら、その差額分を本国が徴収する」という仕組みです。どこへ逃げても、最低15%は払いなさい——そういうルールだと理解してください。

日本はこの制度を2024年度税制改正で国内法に組み込みました。形式上の対象は年商7,500億円以上の多国籍グループですが、それより小さな規模でも、海外子会社との取引構造次第では影響が波及するケースがあります。「うちは関係ない」と即断するのは少し早いかもしれません。

香港・シンガポール経由のスキームが直撃する理由

「でも香港の法人税は16.5%、シンガポールは17%。どちらも15%を超えているじゃないか」と思う方もいるでしょう。

それが落とし穴なんです。

グローバルミニマム税が見るのは「表面税率」ではなく、各種優遇措置や免税スキームを差し引いた「実効税率」です。IP(知的財産)ボックス制度の適用、統括会社への利益集約、グループ内ロイヤルティの活用——こうした手法を組み合わせると、実態として10%以下になっているケースは珍しくありません。

シンガポールに知的財産権を集約してロイヤルティを受け取る構造、香港の統括会社を通じてグループ内利益を圧縮する構造。どちらも、まさに今その前提が崩れようとしています。

2026年の申告が「実質的な初回本番」

2024年に導入されたルールが、なぜ今これほど問題になるのか。

それは、2026年の申告サイクルが実質的な最初の本番だからです。制度開始年度分について、税務当局が本格的に精査してくる最初のタイミングがここです。試算ベースでは、対象グループでの追加法人税が年間2,000万円から数千万円規模に達するケースが現実に出てきています。

「想定外でした」では済まない金額です。

しかも厄介なのは、この計算がグループ全体の連結ベースで行われること。国ごとに1社ずつ見ても全体像が見えません。グループの税務構造を俯瞰できる国際税務の専門家でないと、自分たちがどこにリスクを抱えているかすら把握できないのです。

今すぐ確認しておきたいこと

専門家に相談する前に、経営者として把握しておきたいポイントを整理するとこうなります。

まず、グループ内の実効税率が国ごとにどうなっているか。優遇措置の適用後の数字を、税率が低い国の子会社ごとに計算し直すことが出発点です。

次に、海外子会社との取引構造——移転価格、ロイヤルティ、配当——がグローバルミニマム税のフィルターを通してどう評価されるかです。ここは専門家でないと正確な判断が難しい部分です。

そして、開示義務が発生していないかどうか。申告に必要な書類を揃えていなければ、内容の問題以前に加算税のリスクが生じます。

「うちは関係ない」が一番危ない

国際税務の話は「大企業の問題」と思われがちです。でも年商30〜50億円でも海外拠点を持つグループは珍しくない時代です。持株会社が香港にある、東南アジアに製造子会社がある、シンガポールにトレーディング会社がある——そんな構造をお持ちであれば、一度立ち止まることをおすすめします。

「うちは大丈夫」と決めつけるより、「念のため専門家に確認した」という安心感の方が、経営判断として断然価値があります。2026年の申告期限が迫ってから慌てるより、今のうちに国際税務を専門とする税理士に構造を見てもらいましょう。手を打つなら、早いほど選択肢は広くなります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。