先日、懇意にしている税理士仲間からこんな話を聞きました。
年商15億円規模の製造業を営む田中社長が、海外取引の増加をきっかけに顧問税理士へ相談したところ、予想外の提案を受けたというのです。「シンガポールに子会社を作ってみませんか」と。
最初は半信半疑だった田中社長ですが、スキームを丁寧に理解した上で実行に移した結果、年間で約3000万円もの税負担の圧縮に成功しました。もちろん、合法の範囲内で、です。
今回はこの事例をもとに、海外法人を使った利益分散スキームの仕組みと、絶対に外してはいけない「合法ライン」についてお話しします。
なぜシンガポールなのか
日本の法人実効税率は、現在おおよそ33%前後です。中小〜中堅規模の企業でも、利益が大きくなるほどこの税率がずっしりとのしかかってきます。
一方、シンガポールの法人税率は最大17%。しかも各種優遇措置を活用すれば、さらに実効税率を下げられるケースもあります。この約16〜17ポイントの差が、今回のスキームの肝になっています。
田中社長の場合、海外向けのマーケティング機能や、自社が保有する知的財産権(ブランドや特許など)をシンガポール法人へ移転しました。それにより、海外取引から生まれる利益の一部が、税率の低いシンガポール側で計上されるようになったのです。
年間利益のうち約1.8億円分がシンガポール法人に帰属するようになり、日本との税率差16%を掛け合わせると、おおよそ3000万円弱の節税効果が生まれた計算になります。
「ペーパーカンパニー」では絶対に通らない
ここで一番大事な話をします。
シンガポールに名前だけの会社を作り、書類上だけで利益を移転しようとしても、それは日本の税法上、ほぼ確実にアウトです。
日本には「タックスヘイブン対策税制(CFC税制)」という仕組みがあります。簡単に言うと、実態のない海外子会社に利益を移しても、「その利益は日本親会社のものとみなして課税しますよ」というルールです。
税務署は甘くありません。形だけ整えて節税しようとするスキームには、きちんと網がかかっています。
では、何があれば「実態あり」と認められるのか。主なポイントは以下の3つです。
- 現地に物理的な事務所・拠点が存在すること
- 現地スタッフが実際に業務を遂行していること
- 子会社が独立した経営判断のもとで事業活動をしていること
田中社長のケースでは、シンガポールに実際のオフィスを構え、現地採用のマーケティング担当者を2名雇用しました。海外顧客への営業活動も現地スタッフが主導しており、「機能が実際にそこにある」という状態を丁寧に作り込んだのです。
ここに手を抜いてしまうと、3000万円どころか、過去に遡って追徴課税されるリスクすら生まれます。
スキームを動かす前に必ずやること
率直に言います。このスキームは、普通の税理士に相談しても「難しいですね」で終わる可能性が高いです。
国際税務は、国内の税務とは別次元の専門性が必要な領域です。移転価格税制、PE認定リスク、租税条約の適用可否など、チェックすべき論点が山ほどあります。
田中社長も、最初の顧問税理士からの提案を受けた後、あえて国際税務を専門とする別の税理士に依頼して、スキームの適法性を徹底的に検証してもらったと言っています。
その結果、移転する機能の範囲を一部修正し、知的財産のライセンス料の設定にも適正な「アームズレングス原則(独立当事者間価格)」に基づいた根拠を整えたそうです。
こうした下準備があって初めて、税務調査が来ても堂々と説明できるスキームになります。
海外展開を考えているなら、今がチャンス
海外取引が増えてきた、あるいはこれから本格的に海外進出を考えているという社長にとって、このタイミングで国際税務の視点を持つことは非常に重要です。
国内だけで完結していた事業が海外とつながり始めると、税務の構造を最適化できるチャンスが生まれます。それを「知らなかった」というだけで、何年にもわたって数千万円単位の税負担を余分に払い続けているとしたら、少しもったいない話ですよね。
まずは、自社の海外取引の状況を棚卸しして、国際税務に強い専門家に現状を話してみることから始めてみてください。「うちには関係ない」と思っていた社長ほど、話してみると意外な選択肢が見えてくることがあります。
今期の決算を迎える前に、一度だけ専門家に相談してみる価値は、十分にあると思います。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。