先日、ある経営者からこんな話を聞きました。年商15億円の製造業を経営する50代の社長が、顧問税理士から「そういう節税は弊社では対応していないんですよ」と言われてしまったというのです。

何の話をしていたかというと、シンガポールを絡めた国際節税スキームのこと。もし本当に使えるなら、毎年の法人税負担がどれだけ変わるか——そう考えると、対応できる専門家を探したくなる気持ちはよくわかります。

この「3カ国スキーム」と呼ばれる合法的な節税構造の正体を、今日はできるだけわかりやすくお伝えします。

年商10億を超えると「税負担の重さ」が変わる

日本の法人実効税率は、現在約33〜34%です。売上が10億を超えてくると、この数字が如実に重くのしかかってきます。

たとえば税引前利益が2億円だとすると、そのうち約6,800万円が税金として消えていく計算です。利益をどれだけ積み上げても、3割超が国に持っていかれる——これが日本の法人経営の宿命とも言えます。

だからこそ、一定規模を超えた経営者の一部が、合法的な国際スキームに注目し始めているのです。

カギを握る「外国子会社配当益金不算入制度」

このスキームの核心にあるのが、少し長い名前の日本の税制です。

日本の法人税法には、「外国子会社から受け取った配当の95%を非課税にする」という制度があります。正式名称は外国子会社配当益金不算入制度。要件を満たした外国子会社からの配当であれば、95%分は日本側の課税対象から外れるというルールです。

これを活用すると何が起きるか。法人税率17%のシンガポールに実態ある子会社を設立し、そこで事業の利益を稼いだあと、日本の親会社に配当として還流する。日本側では5%分にしか課税されないため、グループ全体の実効税率が大きく下がる——これが3カ国スキームの基本的な仕組みです。

「3カ国」の構造を整理する

「3カ国」という言葉がわかりにくいかもしれないので、もう少し整理します。

このスキームには、通常3つの国・地域が関わります。日本(親会社が所在し、最終的な収益を受け取る国)、シンガポール(中間会社または事業会社を置く国)、そして事業国(東南アジアや中国など、実際にビジネスを展開している国)です。

日本の親会社 → シンガポール子会社 → 事業国でのビジネス、という流れで利益が生まれ、それが配当として日本に戻ってくる構造です。シンガポールが選ばれる理由は税率の低さだけでなく、法制度の安定性やアジアのハブとしての利便性も大きな要因です。

ペーパーカンパニーは一発でアウト

ここからが重要な注意点です。必ず読んでください。

このスキームを使う上で絶対に外せない条件が「実態のある会社であること」です。シンガポールに名目だけの会社を設立して、実際の経営は日本でやっている——そういう形は「タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)」によって丸ごと否認されます。

具体的には、現地にオフィスがあり、スタッフが常駐し、経営判断の実体がシンガポールに存在することが求められます。ペーパーカンパニーが否認されると、節税どころか過去に遡って課税されるリスクもあるため、「実態」の構築は絶対条件です。

年商10億超が入口目安になる理由

このスキームを機能させるには、それなりのコストが伴います。

シンガポール法人の設立・維持費だけで年間数百万円規模。現地スタッフの人件費、現地の会計・税務費用、日本側の国際税務対応費用を合わせると、毎年かなりの固定費がかかります。それでも「元が取れる」とされるのが、年商10億超・利益1億超あたりのラインです。

この規模になって初めて、スキームの節税効果が維持コストを上回り始めます。「制度として合法」と「自社に合っている」は別の話なのです。

専門家選びが成否を分ける

国際税務は、国内の一般的な税務とはまったく異なる専門領域です。日本の税法だけでなく、相手国の税法、租税条約の解釈、移転価格税制など、複数の知識を横断的に扱える税理士でなければ適切な判断はできません。

冒頭の社長の顧問税理士が「対応していない」と言ったのは、能力が低いからではなく、それだけ専門性の高い領域だということです。もし「このスキームは自社に使えるか」と考え始めているなら、まず国際税務を専門に扱う税理士に相談することを強くおすすめします。

年商10億を超えたら、節税の選択肢は国内だけではなくなります。正しい知識と正しい専門家を持つことが、キャッシュを守る経営の第一歩です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。