先日、年商12億円の製造業を営む社長からこんな話を聞きました。

「去年の決算で法人税、住民税、事業税を合わせると4,000万円近く払った。これって普通ですか?」

正直に申し上げると、普通です。国内法人の実効税率は約34%。課税所得1億円であれば、3,400万円が税金として消えていく計算です。でも「普通」と「最適」はまったく別の話です。

その後、この社長は海外法人を活用したある戦略を実行し、グループ全体の実効税率を15%台まで引き下げることに成功しました。今日はその「二刀流スキーム」の仕組みを、できるだけわかりやすくお話しします。

日本の法人税は「稼げば稼ぐほど重くなる」

中小企業の軽減税率が適用される800万円以下の所得ならまだしも、課税所得が億単位になってくると、実効税率は33〜34%の水準に一気に収束します。都市部では住民税も高めになるため、実質的な負担はそれ以上になるケースも少なくありません。

年間利益が2億円の会社なら、約6,800万円が税金として消えていく計算です。3億円の利益なら1億円超が飛んでいく。毎年この規模の税負担が続くとなれば、経営者として「何とかならないか」と考えるのは当然のことだと思います。

年商10億超の社長が密かに使う「二刀流スキーム」

一部の富裕層オーナー経営者が活用しているのが、国内法人と海外法人を組み合わせた節税戦略です。業界では「二刀流スキーム」とも呼ばれています。

仕組みの骨格はこうです。シンガポールや香港、UAE(アラブ首長国連邦)といった法人税率の低い国・地域に、グループの海外事業拠点を設立します。シンガポールの法人税率は17%、香港は16.5%、UAEに至っては9%(2023年導入)。いずれも日本の34%と比べると大幅に低い水準です。

その海外法人に知的財産のライセンス収入、グループ間のコンサルティングフィー、貿易取引の仲介機能などを集約することで、グループ全体で支払う税金の総額を圧縮できます。国内34%と海外15〜17%を使い分けた結果、グループ全体の実効税率を15〜20%台にまで引き下げることが可能になるわけです。

差額は年2億円規模になることも

少し具体的な数字で考えてみましょう。

課税所得5億円のグループが、すべてを国内で課税されれば税負担は約1億7,000万円。これを二刀流スキームで実効税率15%に圧縮できれば、税負担は約7,500万円。差額は約9,500万円、ほぼ1億円の節税効果です。

課税所得が10億円を超えるような規模になれば、差額が年2億円を超えることも珍しくありません。10年間の累計でみると、数十億円の資金が手元に残るかどうかの差になります。この数字を知れば、なぜ一定規模以上の経営者が海外法人の活用を真剣に検討するのか、自然と腑に落ちると思います。

「ペーパーカンパニー」では即アウト

ただし、絶対に知っておいてほしい落とし穴があります。

海外法人がいわゆる「ペーパーカンパニー」——実態のない名目だけの会社——であれば、日本の税務署に即否認されます。日本にはタックスヘイブン対策税制(CFC税制)があり、実態のない海外子会社の所得は日本の親法人に合算して課税される仕組みになっています。

「シンガポールに会社の登記だけしておけばいい」という発想は完全にアウトです。実際に認められるためには、海外法人が独立した事業実態を持っていることが必要です。現地スタッフの雇用、固定オフィスの確保、現地での実際の契約締結と取引——こうした実態がなければ、節税効果どころか追徴課税のリスクになります。

節税効果が大きい分、税務当局のチェックも厳しくなる領域です。設計段階から国際税務に精通した専門家を巻き込むことが、成功の絶対条件と言えます。

どんな経営者に向いているか

このスキームが現実的な選択肢になるのは、ある程度の事業規模が前提になります。年商10億円以上、課税所得が2〜3億円を超えてくるあたりから、専門家へのコストと節税効果のバランスが合い始めると言われています。

すでに海外取引や海外事業がある、あるいは今後グローバル展開を視野に入れている事業者にとっては、節税と事業拡大を同時に実現できる合理的な選択肢になり得ます。逆に「国内完結で十分」という規模感なら、まだ検討のタイミングではないかもしれません。

実効税率34%の世界に慣れてしまった社長ほど、二刀流スキームの話を聞いたときに「えっ、これって本当にできるの?」と驚かれます。合法的に、適切に設計すれば、十分に実現可能な戦略です。今期の利益が大きくなりそうなら、早めに国際税務の専門家に相談してみることをおすすめします。動き出すタイミングが早いほど、選択肢の幅は広がります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。