先日、年商10億を超える製造業の社長から、こんな一言をもらいました。
「収益マンションを3棟持っているんですが、確定申告のたびに税理士から『税金が重いですね』と言われるだけで、何も変わらなくて……」
この方、賃料収入が年間1億円ほどありました。でも手元に残るのは実感として半分以下。原因は明快で、個人で不動産を保有しているからでした。
個人保有という「じわじわ効く罰金」
日本の所得税は累進課税です。給与や事業所得に賃料収入が乗っかってくると、高所得の経営者には最大55%(所得税45%+住民税10%)の税率が適用されます。
年間1億円の賃料収入があれば、最大で5,500万円が税金に消えていく計算です。もちろん経費や減価償却があるので実際はそこまで行かないケースも多いですが、それでも「稼いだお金の半分近くが税金」という状況になっている方は珍しくありません。
これ、解決できます。使うのが**不動産SPC(Special Purpose Company:特別目的会社)**という仕組みです。
不動産SPCとはどんな器か
SPCとは、特定の目的のためだけに設立する法人のことです。不動産投資の世界ではREITや大型開発案件で広く使われてきた手法ですが、個人の資産管理にも応用できます。
仕組みはシンプルです。社長個人ではなく、新たに設立した不動産保有専門の法人(SPC)が収益不動産を保有する形にします。そうすると、賃料収入は個人の所得税ではなく、法人税の対象になります。
法人の実効税率は規模にもよりますが、**約33〜35%**程度です。個人の最大55%と比べると、実に20ポイント以上の差があります。
10〜15年で3億円超の差はこうして生まれる
数字で見るとイメージがつかみやすくなります。
年間賃料収入1億円を個人で受け取り、実効税率を50%とすると手残りは5,000万円。同じ収入をSPCで受け取り、実効税率34%なら手残りは6,600万円。この差が年間1,600万円です。
10年積み重なれば1億6,000万円。15年なら2億4,000万円。さらに法人内に蓄積した利益を再投資すれば、その効果はさらに膨らんでいきます。「10〜15年で3億円超の差」というのは、決して大げさな数字ではありません。
しかも保有物件を法人に移すタイミングや設計次第では、この効果がさらに大きくなることもあります。
見落としてはいけない3つのコスト
もちろん、いいことずくめではありません。SPC活用には押さえておくべきポイントがあります。
まず設立・維持コストです。法人登記費用、毎年の税務申告費用、役員報酬の設計など、ランニングコストが個人保有より重くなります。収益規模が小さい物件では、節税効果がコストを下回るケースも出てきます。
次に不動産の移転コストです。個人が持っている物件をSPCに移す際は売買という形になり、不動産取得税や登録免許税が発生します。この初期コストを何年で回収できるかも、設計の重要な要素です。
そして税務リスクです。SPC設立の目的が節税のみと見なされると、行為計算否認規定(税務当局が「不当な節税」として否認できる規定)の対象になるリスクがゼロではありません。法人としての実態をしっかり備えておくことが大切です。
このスキームが刺さる人・刺さらない人
効果が特に出やすいのは、次のような方です。年商5億〜10億以上で個人の所得税率が高水準にある経営者、収益不動産をすでに保有しているか購入を検討している方、そして10年以上の長期保有を想定している方です。
逆に「1〜2棟の小規模物件のみ」「数年で売却を予定」というケースでは、コスト面でメリットが出にくいこともあります。スキームの良し悪しよりも「自分の状況に合うかどうか」が先です。
まず「SPC、使えますか?」の一言から
不動産SPCは決して裏技ではなく、適切に設計すれば合法的かつ効果的な資産戦略です。ただ、設計の巧拙によって節税効果もリスクも大きく変わります。
まず顧問の税理士に「自分の不動産をSPCで保有する選択肢はどう思いますか?」と聞いてみてください。もし「それは難しいですね」という答えしか返ってこないなら、不動産法人化を得意とする専門家への相談を検討する価値があります。
年商が上がるほど、税の設計も「個人の延長」ではなく「法人戦略」として組み直す必要が出てきます。今期の決算が終わったタイミングこそ、見直しの絶好の機会です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。