先日、年商10億円を超えるオーナー社長から、こんど連絡が届きました。「税務調査で不動産SPCのスキームを全否認された。追徴税額が1億円を超えそうだ」と。
その社長は3年前、顧問税理士に勧められた不動産SPC(特別目的会社)を使った節税スキームを実行していました。不動産を別会社に移して賃料収入を分散させ、法人税を圧縮する仕組みです。書類の上では完璧に見えました。
ところが税務調査官が実態を精査したところ、そのSPCは「名前だけの会社」と判断されてしまったのです。
税務署が「形式」ではなく「実態」を見る理由
不動産SPCスキームは、正しく設計すれば合法的に機能します。ただし税務署が問題視するのは「形式的にSPCが存在するか」ではなく、「そのSPCが本当に実体を持った法人として機能しているか」です。
同族会社や節税目的で設立された法人に対しては、特に厳しく実態が調査されます。追徴税額が数千万〜億円規模になるケースも珍しくなく、加算税や延滞税まで含めると節税効果を大幅に上回る損害になることもあります。
では、どんな設計ミスが否認の引き金になるのか。よく見られる失敗パターンを3つ紹介します。
設計ミス①:SPCに管理実態がない
一番多い否認理由がこれです。SPC(別会社)を設立したのに、実際の意思決定はすべて社長個人が行っている状態です。
SPC名義の不動産なのに、入居者対応も修繕発注も社長が直接行っている。取締役会の議事録はあるけれど、形式的に作っただけで実際には会議が開かれていない。このようなケースは「実態として事業をしていない法人」と判断されます。
SPCが節税スキームとして機能するためには、独立した法人として意思決定を行い、業務を実行している実態が必要です。社長が関与するとしても、役員報酬の根拠となる職務内容や業務分担を明確に定義しておかなければなりません。
設計ミス②:不動産の低額譲渡
個人または親会社からSPCへ不動産を移すとき、時価より安い価格で譲渡するケースがあります。節税効果を高めようとして、帳簿上の価格や都合のいい評価額で売却するのです。
これは税法上「時価で売却した」とみなされ、差額分に課税されます。同族会社間の取引には「低額譲渡」「高額譲渡」のルールがあり、時価との差額が贈与や給与と認定されることがあります。結果として、節税どころか余分な税負担が発生してしまうのです。
適正な時価を算定するには、不動産鑑定士による鑑定評価が有効です。コストと手間がかかる手順ですが、ここを省略すると後で高くつくリスクがあります。
設計ミス③:経済合理性のない資金移動
SPCと親会社・個人の間で、説明のつかない資金の流れがある場合も否認の対象になります。
典型例は、SPCから社長個人へ「コンサルフィー」として多額の費用を支払っているのに、具体的な業務内容が契約書にも存在せず、何をしたかの証拠もないケースです。あるいはSPCの余剰資金を親会社に融資する形でループさせ、実質的に親会社のコストをSPCに付け替えているパターンもあります。
税務調査官はキャッシュフローの流れを細部まで追います。「なぜこのタイミングでこの金額が動いたのか」を論理的に説明できない資金移動は、否認の的になります。
対策は「設計段階」で決まる
3つのパターンに共通しているのは、「SPCを作った後で問題が発覚する」という点です。設立から数年後の税務調査で発覚するケースがほとんどで、その時点では遡及して修正する方法がありません。
重加算税(最大40%)や延滞税まで上乗せされると、ダメージは当初の追徴額をさらに大きく超えます。
不動産SPCスキームを検討しているなら、構築前に必ず税理士と弁護士の両方を交えて構造を精査してください。特に「実態要件」は法律の条文だけでなく、税務の実務慣行や過去の裁決事例を踏まえた判断が必要です。
すでにSPCを運用中であれば、管理実態の整備・議事録の適正化・取引価格の根拠書類の確認を、今期中に一度専門家に見てもらうことをおすすめします。取り返しのつく今のうちに動くことが大切です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。