先日、都内に不動産を複数保有する社長から、こんな相談を受けました。「節税のためにSPCを3社作ったんですが、税務調査が入って全部否認されそうで……」。電話越しに、声が明らかに震えていました。

話を聞くと、数年前に税理士のアドバイスで設立した不動産SPC(特別目的会社)が、「法人としての実態がない」と税務署から指摘を受けているとのこと。節税スキーム自体は合法でも、運用の仕方次第で一瞬にして崩れる——それがSPC節税の怖さです。

SPC節税が否認される根本原因

不動産SPCを活用した節税は、グループ全体の税負担を下げる有効な手段です。しかし税務署が調査に入ったとき、最初に問われるのは節税の金額ではありません。「このSPCに、本当に独立した法人としての実態があるか」という一点です。

実態なしと判断されると、SPCが計上していた費用や損金が一括否認されます。さらに怖いのは、調査は最大で5年間遡ることができる点。設立から数年分の節税効果が、一度の調査でまとめて消えてしまうリスクがあります。

調査官が必ずチェックする3つのポイント

では具体的に、税務署はどこを見るのか。経験上、次の3点が最初にターゲットになります。

① 銀行口座の独立性

SPC専用の口座が開設されているか、そして実際にその口座で賃料の入出金が行われているかどうかです。親会社の口座と混在していたり、資金移動の根拠が不明瞭だったりすると「実態がない」とみなされます。口座を持っているだけでは不十分で、日々の取引の流れが独立して機能していることが求められます。

② 賃貸借契約書の整備

SPC名義で物件を保有しているなら、テナントや管理会社との契約書もSPC名義でなければなりません。ところが実務では「親会社名義の契約書を引き継いだまま」「管理委託契約をそのまま使い続けていた」というケースが多い。契約書の名義が一枚違うだけで、費用計上の根拠が崩れます。

③ 役員・株主構成の重複

親会社と役員が完全に同じというSPCは、独立した法人として認められにくい。完全な分離は難しいとしても、SPCとしての独自の意思決定プロセスがあることを記録で示せるかどうかが重要です。取締役会の議事録や株主総会の決議書が整備されているか、直近の決算書が適切に作成・保存されているかを確認してください。

「設立しただけ」では節税は守れない

問題になるケースの多くは、設立当初の管理体制の甘さです。スキームを組んだ直後は意識が高くても、数年も経てば「なんとなく親会社と混在してきた」という状況に陥りがちです。特に忙しい経営者ほど、SPCの書類管理が後回しになりやすい。

5年遡及ということは、「設立当時の管理がどうだったか」まで問われるということです。「最近は整備したから大丈夫」と思っていても、数年前の帳簿や契約書がネックになることがあります。冒頭の社長は最終的に顧問税理士と一緒に書類を整え直して、否認を最小限に抑えることができました。ただ、そのために数ヶ月の時間と相応のコストがかかりました。設立当初に整備していれば、不要だった労力です。

今すぐ確認すべきこと

不動産SPCを保有しているなら、次の3点を今すぐ確認してください。

  • SPC専用の銀行口座が独立して稼働しているか
  • テナント・管理会社との契約書がSPC名義になっているか
  • 直近3期分の議事録・決算書が整備されているか

これらに一つでも不安があれば、税務調査が来る前に手を打つことを強くおすすめします。SPC節税を守るカギは、設立後の「実態づくり」にあります。スキームを組んだことに満足せず、日々の運用管理こそが節税を守る唯一の盾だと覚えておいてください。税理士への相談は、何かあってからではなく「何もない今」が最もコストパフォーマンスが高いタイミングです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。