「海外の不動産で節税しているんですが、最近なんとなく不安で…」

先日、都内で不動産賃貸業を営む社長からこんな相談を受けました。年商は約10億円。数年前にハワイとマレーシアに物件を購入し、毎年数百万円の損失を申告書に計上して節税していた方です。

その社長の「なんとなく不安」は、残念ながら正しかった。今まさに、国税当局が海外不動産スキームを本格的にターゲットにし始めているからです。

「海外のことは税務署にわからない」は、もう昔話

CRS(共通報告基準)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。2018年から本格稼働した国際的な情報交換の枠組みで、現在100か国以上の金融口座情報が日本に自動送付されています。

銀行口座の残高、利子、配当、売却益——海外に持つ金融資産の情報が、毎年自動的に国税庁のデータベースに蓄積されていく仕組みです。不動産の取引記録や送金履歴も同様に把握されています。

「現地の税務署にはちゃんと申告している」という方も多いですが、問題はそこではありません。日本側でもすでに情報を持っている、という前提に立つ必要があります。

最初に調査が来る「3条件」

現場感覚として、次の3つが重なった社長から順番に調査に入る傾向があります。

まず①CRSで海外資産が把握済みであること。これはほぼ自動的に国税に届く情報です。口座を持っている時点で、条件の一つはクリアされています。

次に②200万円超の国外送金記録があること。国内銀行から海外に200万円以上を送金すると、金融機関から税務署への報告義務が生じます。物件の頭金、リフォーム費用の送金……心当たりのある方は少なくないはずです。

そして③申告書に損失を計上していること。海外不動産の赤字を国内所得と損益通算して税金を圧縮している——まさにその申告書が「旗」になります。節税のためにきちんと申告したことが、調査の糸口になるというのは皮肉な話ですが、これが現実です。

追徴が「元本超え」になるメカニズム

調査が入って一番怖いのは、節税で得た額より多くの追徴が来るケースです。実際にそういった事例が出始めています。

仕組みはシンプルです。申告漏れの本税に対して、まず重加算税が35%乗ります。さらに申告期限にさかのぼって延滞税が積み上がります。

仮に3年分の申告が否認され、年間100万円の本税が発生したとすると、重加算税だけで105万円。そこに複数年分の延滞税が加わります。節税効果として得た額が300万円でも、追徴の合計がそれを超えることは十分にありえます。

「節税のつもりが結果的に大きな赤字になった」という結末は、遠い話ではありません。

やるべきことは「棚卸し」から

今の時点でまず取り組んでほしいのは、既存スキームの現状整理です。

  • 海外不動産スキームは何年目で、損益通算の累計額はいくらか
  • スキームを組んだ税理士と今も連絡が取れる状態か
  • CRS対象になりうる口座や資産は何があるか

このあたりを自分で把握した上で、海外税務に詳しい税理士に一度見てもらうことを強くお勧めします。「自分のは大丈夫なはず」と思っている方ほど、第三者の目でチェックしてもらうべきです。

税務調査の通知が来てから動いても、打てる手は限られます。今なら修正申告など、自分でコントロールできる選択肢がまだ残っています。心当たりがある方は、早めに動くほど選択肢が広がります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。