先日、年商10億を超える製造業の社長から、こんな相談がありました。
「3年前に税理士の紹介でシンガポールに子会社を作ったんですが、先日の税務調査で追徴課税の話が出てきて……」
聞いた瞬間、ぞっとしました。節税のために作ったはずの海外法人が、逆に数千万円の追加課税を生み出していたのです。
「海外法人=節税」という誤解が招く致命的ミス
海外に法人を作って利益を移せば税金が安くなる——これは、ある意味では正しいのですが、構造を理解せずに動くと取り返しのつかないことになります。
日本には「CFC税制」と呼ばれる規制があります。正式名称は「外国子会社合算税制」または「タックスヘイブン対策税制」と言い、日本の株主が50%超の持株比率を持つ外国子会社が一定条件に該当すると、その海外法人の利益が丸ごと日本の親会社の所得に合算されて課税される仕組みです。
「シンガポール法人に利益を残しておけば日本では課税されない」と思っていたら、実は日本でも課税されていた——これがCFC税制の罠です。先ほどの社長は、まさにこのケースでした。
合法的に使える海外節税スキームは3つある
CFC税制を踏まえた上で、合法的に設計できるスキームは主に3つあります。それぞれ用途と注意点が異なるので、順番に見ていきましょう。
① 海外JOL(オペレーティングリース)
航空機や船舶などを対象としたオペレーティングリース投資です。出資した初年度に出資額の50〜80%を損金として計上でき、大きな利益が出た年に有効な手段です。
このスキームは日本法人での損金計上が目的で、海外に利益を留保するわけではないため、CFC税制の問題は生じません。ただし満期には益金として利益が戻ってくる構造になっているため、「今期だけ見た節税」ではなく、数年後の出口まで含めた資金計画が不可欠です。
② 実態のある海外事業法人
CFC税制が狙い撃ちにするのは「実体のない箱法人」です。逆に言えば、現地に従業員・オフィス・取引があり、事業としての実態が認められる法人はCFC対象外に設計できるケースがあります。
例えばアジア拠点に現地採用スタッフを置き、現地顧客との取引を実際に行っている場合です。「日本から指示を出すだけの名目上の法人」ではなく、独立して機能する事業体として認定されるかどうかが設計の肝になります。この判断は税務当局の解釈にも依存するため、設計段階から国際税務の専門家の関与が欠かせません。
③ 海外不動産の法人保有
2020年の税制改正以降、個人が海外不動産を保有した場合の損失は、国内の他の所得と損益通算できなくなりました。しかし日本の法人名義で保有する場合は、この制限の対象外です。
含み損や初期コストを法人の他の利益と相殺できるため、節税効果が生まれるケースがあります。ただし不動産の種類・所在地・取得スキームによって取り扱いが変わりますので、「法人にすれば大丈夫」と単純に動くのは禁物です。
専門家の設計なしに動くと、節税が追徴課税に化ける
上記3つはいずれも合法ですが、設計が一つでも間違えると、節税どころか多額の追徴課税リスクを抱えることになります。
冒頭の社長の場合、子会社設立自体は間違っていませんでした。しかし持株比率の設計とCFC適用要件の整理が不十分で、結果として海外法人の利益が日本でも課税対象になっていたのです。しかも担当していた税理士は国内税務の専門家で、国際税務の実務経験がなかったことが後から判明しました。
「税理士に相談したから大丈夫」は、国内税務の文脈での話であって、国際税務では通用しません。スキームの概要を「知っている」と「正しく設計できる」は全く別の話で、後者ができる税理士はかなり限られています。
年商10億を超えて海外投資を検討しているなら、まず「国際税務に強い専門家に相談すること」を最初の一歩にしてください。スキームの選択はその後です。正しい構造で設計された海外節税は強力な武器になりますが、誤解したまま動いた場合の代償は非常に重くなります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。