先日、ある製造業の社長から「保険を解約したら税理士から連絡が来て、追加で税金を払うことになった」という話を聞きました。金額を聞いて驚きました。想定外の税負担は2000万円超。加入時に「節税になる」と説明を受けた法人保険が、出口で大きな損失を生んでいたのです。

この種の「出口の悲劇」は、決してめずらしくありません。今回は、特に2019年以降に注意が必要な法人保険の設計ミスについてお伝えします。

2019年の改正で、ルールが大きく変わった

2019年7月、国税庁は法人保険の損金算入ルールを抜本的に見直しました。改正前は「払った保険料の半分を損金に落とせる」商品が節税商品として広く売られていました。改正後は、解約返戻率の高さによって損金算入できる割合が細かく区分されています。

なかでも厳しいのが、最高解約返戻率が85%を超える商品です。この区分に該当すると、加入から10年間に損金算入できる割合は「100%から(解約返戻率×0.9)を引いた数字」に制限されます。解約返戻率が90%の保険なら、損金に落とせるのは保険料のわずか19%。払い込んだ保険料の8割以上が、損金として認められないのです。

「それなら最初から期待していなかった」という方もいるかもしれません。しかし本当の問題は、加入するときではなく解約するときに起きます。

節税ではなく「課税の先送り」という現実

法人保険の解約返戻金は、受け取った時点で全額が益金、つまり法人税の課税対象になります。保険料を損金に落としていた分はあくまで「課税の先送り」であり、いつかは必ず税金を払う日がやってきます。

この構造を理解しないまま加入してしまうと、「節税になっていると思っていたのに、解約したら大きな税負担が待っていた」という事態になります。

出口で課税を和らげる一般的な方法は、解約返戻金を役員退職金と相殺することです。退職金は損金として計上できるため、解約返戻金の益金と相殺すれば、税負担を平準化できます。問題は、このタイミングを合わせることが思いのほか難しい点にあります。

退職金との「ズレ」が3000万の差を生む

解約と退職金の支払いタイミングがずれると、大きな損失が発生します。解約だけを先行させると、その年度に多額の益金が一気に生じて法人税が跳ね上がります。逆に退職金を先行させると、翌年以降に解約返戻金が入ってきて二重に課税される可能性があります。

さらに、解約返戻率がピークを迎える時期を逃してしまうと、受け取れる返戻金そのものが大きく減ります。85%超の高返戻率商品は、ピーク前後で返戻率が急激に下がるように設計されているものが少なくありません。

これらのズレが重なると、「最初から何もしなかった場合」と比べて、手元に残るキャッシュが2000万〜3000万円以上少なくなるケースが実際に起きています。

返戻率50%以下と85%超で、会社に残るお金がこれだけ違う

最高解約返戻率が50%以下の商品であれば、保険料の全額を損金に算入できます。保障を得ながらコストとして落とせる、シンプルな設計です。

一方、85%超の商品は損金算入効果が極めて小さく、出口設計も複雑になります。長期的に見たとき、会社に残るキャッシュの差は数千万円単位になることがあります。

どちらが良い・悪いという話ではありません。事業の状況、経営者の年齢、退職金の設計によって適切な選択肢は変わります。ただ「高い返戻率=お得」という思い込みだけで選ぶのは危険です。

加入前に確認しておくべき2つのこと

まず、返戻率の区分を数字で確認してください。 最高解約返戻率が何%の商品か、それによって損金算入できる割合がどう変わるかを、営業担当者に具体的に聞いてみましょう。「改正後の損金算入率を教えてください」と一言聞けば、数字が出てくるはずです。

次に、出口の設計まで見てシミュレーションしてください。 いつ解約し、その時点で会社にキャッシュがいくら残るのか。退職金との相殺はどのタイミングにするのか。この出口まで含めた設計を加入前に確認することが、後の損失を防ぐ最大の防衛策です。

すでに法人保険に加入している会社は、今すぐ解約返戻率のピーク時期を確認してください。「まだ先の話」と思っているうちにピークを過ぎてしまい、取り返しのつかない状況になることが少なくないからです。担当の税理士に「今の保険、出口設計はどうなっていますか?」と聞いてみることを、強くおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。