先日、ある製造業の社長から深刻な相談を受けました。税務調査が入り、長年続けてきた法人保険の節税スキームが「ほぼ全額否認された」というのです。

節税効果は約1億円を見込んでいたはずが、追徴税に重加算税・延滞税まで加わり、最終的な損失は想定の2倍近く。「節税のつもりが、何もしなかったより大きく損をした」という状況でした。

なぜ今、法人保険の節税が危ないのか

2019年、国税庁は法人保険に関する通達を大幅に改正しました。それまで広く使われていた「全額損金算入スキーム」——保険料を払いながら法人税を圧縮し、解約返戻金を退職金として受け取る手法——の損金算入ルールが、根本から見直されたのです。

改正後は、最高解約返戻率に応じて損金に算入できる割合が細かく制限されています。返戻率が高い商品ほど、損金として落とせる割合は下がります。

問題は「改正前から加入している保険をそのまま継続しているケース」です。当時は合法だったとしても、現行ルールへの対応ができているかどうかが、調査で問われます。

否認される3つのパターン

実際に税務調査で指摘されるのは、ほぼ共通したパターンです。

パターン①:旧ルールのまま全額損金を続けている

2019年以降も改正前の処理を継続しているケースです。顧問税理士が改正を把握していなかった、あるいは見直しの提案がなかったまま数年が経過していた事例を複数見てきました。「任せているから大丈夫」は通用しません。

パターン②:解約返戻金と退職金の整合性がない

「解約時の返戻金を退職金に充てる」という計画で加入したにもかかわらず、退職金の支給時期・金額・計算根拠が明確でないケースです。退職金規程がない、または役員退職金の算定根拠が曖昧だと、「節税目的のみ」と認定される材料になります。

パターン③:事業目的が希薄と認定される

法人保険の本来の目的は、経営者に万一のことがあった場合の事業継続リスクへの備えです。保険金額の設定根拠や加入の経緯を説明できない場合、「損金算入ありきで加入した」とみなされます。

否認されると数字がどう変わるか

1億円の節税効果が消えるだけでは済みません。重加算税は本税の35%、これに延滞税が上乗せされます。

仮に過去5年分で1億円の損金算入が否認され、実効税率30%で計算すると、本税が3,000万円。重加算税が約1,050万円、延滞税を加えると合計4,500万円超の追加負担になることもあります。保険料として支払った総額と比べたとき、どちらが大きいか——そこまで含めて計算する必要があります。

今からできる3つの対策

現時点でリスクを下げるためにできることは、大きく3点です。

対策①:損金算入割合を現行ルールで再確認する

加入中の保険が、改正後のルールに沿った経理処理になっているかを確認してください。最高解約返戻率によって、全額・1/2・3/4など算入割合が変わります。処理が誤っていれば、早期に修正することが重要です。

対策②:退職金計画と事前に整合させる

解約予定時期と退職金の支給時期・金額の計画を書面で明確にしておくことが、整合性の証明になります。退職金規程がまだ整備されていない会社は、この機会に作成しておきましょう。

対策③:加入目的を書面で残す

「なぜこの保険に加入したのか」を、取締役会議事録や社内決裁書として残しておくことで、事業目的の証明になります。特に高額な保険ほど、根拠の文書化が調査対応のカギになります。


法人保険は正しく使えば有効な財務ツールですが、2019年以降は設計の前提が変わっています。「加入したときから何も見直していない」という方は、まず現在の契約内容と損金処理の方法を確認するところから始めてください。税務調査は予告なく来ます。動けるうちに動いておくことが、最大のリスクヘッジです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。