先日、顧問先の社長からこんな連絡が来ました。「税務調査が入って、保険の処理に問題があると言われた。追徴課税になりそうだ」と。
年商10億円を超える製造業の会社で、10年以上前から法人保険を使った節税スキームを組んでいたそうです。担当の保険営業マンに言われるがまま契約し、税理士にも「大丈夫ですよ」と言われていた。でも、その税理士が法令改正を追いきれていなかった。そういうケースが、ここ数年で急増しています。
法人保険を使った節税は、うまく設計すれば強力な手段になります。ただ、税務署もそれをよく知っていて、調査の優先度は年々上がっています。今日は、実際に税務調査で指摘されやすい3つのポイントを、できるだけ具体的にお伝えします。
損金算入の割合、2019年以降に見直しましたか?
2019年に国税庁が法人保険の税務ルールを大きく改正しました。それ以前は「半損」「全損」といった形で保険料のかなりの部分を損金にできる商品が多かったのですが、改正後は最高解約返戻率が85%を超える商品について、損金に算入できる割合が大幅に制限されています。
問題なのは、2019年以前に契約した保険をそのまま継続しているケースです。古いルールで処理し続けていると、改正後の期間分について損金算入を否認されるリスクがあります。「昔からこうしていた」は通用しません。契約当時の処理が正しくても、現在の税務上の取り扱いに沿っているかどうかを定期的に確認する必要があります。
保険会社や担当営業から案内が来ていないからといって安心しないでください。自社の保険契約一覧を引っ張り出して、顧問税理士と一緒に現行ルールへの適合性を確認するのが最初のステップです。
「名義変更プラン」は、もうほぼ使えません
少し前まで、節税スキームとして広く使われていた手法があります。法人で加入した生命保険を、解約返戻率が低いタイミングで低額のまま役員個人に名義変更し、その後個人が高額の解約返戻金を受け取るというやり方です。
法人側では低い評価額で資産を移転できるため、実質的に会社から役員への低課税な利益移転ができると言われていました。ただ、2021年に国税庁が通達を改正し、このスキームは事実上封じられました。名義変更時の評価方法が変わり、法人が適正な金額で課税されるようになっています。
厄介なのは、2021年以前にこのスキームを使って途中まで進めていた会社が、改正後もそのまま続けているケースがあることです。通達改正を知らずに実行した場合、追徴課税だけでなく加算税が乗ってくる可能性もあります。「保険会社が提案してきたから問題ないはず」という思い込みは危険です。
退職金規程がないのに「退職金のための保険」は通りません
税務調査で最も多く指摘されているのが、これです。
「この保険は将来の役員退職金を準備するためのものです」と説明しながら、退職金規程が存在しない、あるいは形だけの規程しかない会社が驚くほど多い。税務署の調査官は当然そこを突いてきます。
退職金の支給根拠が規程として整備されていない場合、「退職金のための支出」という論拠が崩れます。そうなると、損金算入していた保険料の全額が否認される可能性があります。数年分が一気に否認されれば、追徴税額は数百万円から場合によっては1000万円を超えることもあります。
退職金規程は作るだけでなく、株主総会や取締役会で正式に承認されていること、支給倍率の計算根拠が合理的であること、そして保険の保障額と退職金の予定額がおおよそ整合していることが重要です。保険と規程はセットで設計しないと、どちらも機能しません。
今すぐできる確認リスト
むずかしく考えすぎず、まず以下の3点を確認してみてください。
- 現在加入している法人保険の契約日と、損金処理の根拠となったルールが現行法令と合っているか
- 過去に名義変更を行った保険契約がないか、あるいは検討中でないか
- 退職金規程が正式に制定・承認されており、保険の解約返戻金と退職金の見込み額が大きくずれていないか
これだけでも、調査リスクの大きなものを事前に潰せます。
法人保険は正しく使えば、退職金準備としても節税としても非常に有効な手段です。ただ、税務ルールの改正スピードは速く、一度設計したスキームをメンテナンスせずに放置するのが一番危険です。
顧問税理士と年に一度は保険契約の棚卸しをする習慣をつけておくことを、強くおすすめします。特に決算前や役員の退職が近づいているタイミングは、必ず確認しておきましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。