先日、アジアでEC事業を展開している社長からこんな相談を受けました。「シンガポールに法人を作れば税金が下がると聞いたのですが、何か気をつけることはありますか?」
話を聞けば、税率の低い国に利益を移せば日本の税負担が軽くなる——そんなイメージで法人設立を進めようとしていたとのことでした。正直、冷や汗が出ました。その認識のまま進んでいたら、数年後に国税から多額の追徴課税を受けていた可能性が十分あったからです。
海外法人を使った節税は「知っている人だけが得をする」話ではなく、「知らない人だけが大損をする」話です。今回は、失敗する社長が必ずと言っていいほど踏んでしまう3つの落とし穴をお伝えします。
落とし穴3位:タックスヘイブン対策税制——「溜め込めば大丈夫」は通じない
「税率の低い国の法人に利益を残しておけば、日本では課税されない」——このイメージが最初の落とし穴です。
日本には「外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)」という仕組みがあり、実効税率が20%未満の海外法人に利益を留保していると、たとえ配当として受け取っていなくても日本の親会社の所得に合算して課税されます。つまり、分配しなくても課税されるのです。
ここで多くの社長が「香港やシンガポールは違うでしょ?」と思います。しかしこれが落とし穴の核心です。シンガポールの法人税率は17%前後、香港は16.5%。どちらも対象ラインである20%を下回っています。節税の定番として名前が挙がる国ほど、この制度の射程圏内にあると思っておいてください。
落とし穴2位:PE(恒久的施設)リスク——「海外法人」なのに日本で課税される
次によくあるのが、「法人の住所だけ海外に置いて、自分は日本で仕事をしている」というケースです。
PEとは「恒久的施設」のことで、実態として日本に拠点があると判断されると、海外法人でも国内法人と同じように課税されます。税務当局が見るのは書類上の住所ではなく、「どこで意思決定が行われているか」という実態です。
社長が日本に住み、日本から契約の交渉・締結を行い、重要な判断をすべて日本で下している——この状況は、PEリスクが高いと言わざるを得ません。「海外法人のはずなのになぜ?」という感覚が逆に危険です。形式より実態を重視するのが国際税務のルールだからです。
落とし穴1位:移転価格税制——追徴5000万円超の現実
そして最も深刻な落とし穴が、移転価格税制です。これが今回の「5000万円超の追徴」につながるリスクの本丸です。
日本法人と海外子会社の間でサービスの提供や商品の売買を行う場合、その取引価格は「独立した第三者間で取引される時価」に合わせなければなりません。グループ内だからといって自由に価格を設定できるわけではないのです。
たとえば、日本法人が海外子会社に格安でコンサルティングサービスを提供して利益を移転するようなケース。これは国税の国際課税部門が最も目を光らせているパターンです。調査が入ると追徴課税が5,000万円を超えることも珍しくなく、しかも調査対象期間は最大7年に及びます。一度引っかかったときの被害は甚大です。
海外法人は「出口戦略」まで設計してから動く
誤解しないでいただきたいのですが、海外展開による節税が一切できない、という話ではありません。ただしそれは、実態を伴った海外ビジネスの延長線上にある話です。節税だけを目的とした「ペーパー法人」は、税務当局から見れば格好のターゲットになります。
そもそも海外法人の維持コストも侮れません。シンガポール法人なら年間100万円以上かかるケースも普通にあります。追徴課税と維持費の両方が乗ってきたら、節税どころか大幅なマイナスになります。
海外法人の設立を検討しているなら、まず国際税務を専門とする税理士への相談を最初のステップにしてください。CFC税制・PEリスク・移転価格の3つを体系的に説明できる専門家かどうかが、選ぶ際の一つの目安になります。すでに海外法人をお持ちの場合も、現状の実態が税務リスクを抱えていないか、一度見直しておくことを強くお勧めします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。