先日、年商10億円規模の不動産オーナーの社長からこんな相談を受けました。「知人に勧められて一般社団法人を設立したんですが、税理士に見せたら顔色が変わって…」という内容でした。

話を聞いてみると、節税スキームとして広まっている手法をそのまま実行してしまい、税務リスクの塊のような状態になっていたのです。一般社団法人を使った資産防衛策は、正しく設計すれば確かに有効な手段です。しかし、落とし穴を知らずに走ると、節税どころか税務調査で数千万円規模の追徴を受けることもある。今日はそのリアルをお伝えします。


落とし穴その3:「非課税のはずが課税対象」になった持分なし法人の誤算

一般社団法人には「持分」という概念がありません。これを利用して、資産を法人に移転することで相続財産から切り離せる、という触れ込みで広まったスキームがあります。確かに以前はそれが通用した時代もありました。

ただし、2017年の税制改正でルールが大きく変わっています。特定の親族などが役員の過半数を占める「同族支配法人」に対して資産移転を行った場合、その経済的利益に対して相続税が課税される仕組みが導入されました。いわゆる「持分なし法人への贈与等に係る贈与税・相続税の課税」です。

改正前の情報をもとにスキームを組んでいた場合、「非課税で資産を移した」つもりが、実は課税対象になっていたという事態が今でも起きています。税制は毎年動くもの。数年前に設計したスキームが今でも有効とは限らないのです。


落とし穴その2:役員報酬の否認で、3年分さかのぼって追徴課税

一般社団法人を設立すると、家族を役員に就任させて報酬を支払い、所得を分散するという手法が使われることがあります。法人の経費にもなるし、個人の累進課税も抑えられる。一石二鳥のように見えます。

しかし税務調査官が最初に確認するのは、「その役員は本当に仕事をしているか」という実態です。名義だけの役員、あるいは職務内容に対して明らかに過大な報酬は「損金不算入」として否認されます。

3年分さかのぼって否認された場合、追徴税額が数千万円規模に膨らむケースは珍しくありません。加算税・延滞税まで含めると、節税で得たはずのメリットがすべて吹き飛び、むしろマイナスになることもあります。役員報酬を設定するなら、職務内容・勤務実態・議事録の整備がセットで必要です。


落とし穴その1(最重要):設立目的が「節税」だと、そもそも非営利型にならない

これが最も根本的な落とし穴です。一般社団法人が税制上のメリットを受けるためには、「非営利型法人」の要件を満たす必要があります。収益事業以外の所得には課税されない、というあの仕組みです。

ところが、非営利型の認定には明確な要件があります。剰余金の分配を行わないこと、解散時の残余財産を特定の個人や団体に帰属させないこと、そして設立目的が公益的・共益的であることなどが求められます。

「節税のために設立しました」という実態がある法人は、この要件を満たせません。その結果、普通法人として課税され、せっかく設立した一般社団法人のメリットがゼロになります。最悪の場合は、法人税・消費税・地方税すべてが発生した上で、移転した資産への課税まで重なるという二重苦になります。

設立定款の目的条項、実際の活動内容、資金の流れ。これらすべてが「公益・共益のための法人である」という実態を示していなければなりません。


スキームの前に、必ずやるべきこと

一般社団法人を使った資産防衛策そのものが悪いわけではありません。正しく設計すれば、相続対策・所得分散・事業承継において有効なツールになります。

問題は、「誰かに聞いた」「セミナーで紹介されていた」レベルの知識で走り始めてしまうことです。税制改正への対応、要件の確認、職務実態の整備。このあたりを専門家と一緒に確認しながら進めることが、遠回りに見えて一番のリスク回避になります。

もし今すでに一般社団法人を持っていて「設立したきり、よく確認していない」という状態なら、今期中に一度、税理士と一緒に現状の要件適合チェックをしてみてください。小さな確認が、数千万円規模のリスクを未然に防ぐことになります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。