先日、年商12億の製造業の社長からこんな相談を受けました。
「同業他社を3億で買収したんですが、正直、払いすぎたかなと思っていて……」
話を聞いていくと、買収自体は戦略的に正しい判断でした。ただ、もったいなかったのは「税務メリットをほぼ活用できていなかった」こと。M&Aは確かに大きな出費ですが、使い方次第で相当な節税効果を生み出せる器でもあります。
今日は、買い手側が見落としがちな税務メリットを5つ、順番にお伝えします。
のれん償却で買収コストを損金に落とす
M&Aで会社を買うとき、買収額が対象会社の純資産を上回ることがほとんどです。この差額が「のれん」と呼ばれるもので、税務上は最長20年にわたって損金算入できます。
たとえば3億円で買収した会社の純資産が1億円だったとすると、2億円がのれんとして計上され、20年間で毎年1,000万円ずつ経費になる計算です。法人税率を約30%とすれば、トータルで6,000万円近い節税効果になります。
「買収額が高かった」と感じている社長ほど、実はこの仕組みで長期的に取り戻せるケースが多いんです。
赤字会社を買う「逆転の発想」
M&Aと聞くと、優良企業を高値で買うイメージが強いかもしれません。でも税務の観点では、赤字会社の買収が「お宝」になることがあります。
理由は繰越欠損金の引継ぎです。対象会社が持っている過去の赤字(最大10年分)を引き継いで、将来の黒字と相殺できる制度があります。ただし、この制度は適用条件がかなり厳格で、支配関係の継続や事業継続要件など複数のハードルがあります。
条件をクリアできれば、億単位の欠損金がそのまま節税の武器になります。買収検討の段階で必ず税理士に確認してほしいポイントです。
グループ通算制度で「赤字の子会社」を活かす
複数の法人を持つグループ経営者にぜひ知っておいてほしいのが、グループ通算制度です。
簡単に言うと、グループ内の赤字法人の損失を、黒字の親会社や他の子会社の利益と合算して税金を計算できる仕組みです。たとえば、親会社が年間2億円の利益を出している一方、買収した子会社が5,000万円の赤字を抱えていたとすると、グループ全体で1億5,000万円の利益として税金を計算できます。
以前の「連結納税制度」が2022年に見直されてシンプルになったこの制度、M&A後の再編と組み合わせると威力を発揮します。
資産の時価評価リセットという視点
これはやや上級編ですが、知っておいて損はありません。
買収した会社が含み益を抱えた資産(不動産や有価証券など)を持っている場合、一定の条件下でその資産の帳簿価額を時価にリセットできるケースがあります。その後に売却しても、課税の計算起点が変わるため、税負担を圧縮できる可能性があります。
ただし、これは適用できる場面が限られており、スキームの組み方によっても結果が大きく変わります。「なんとなく使えそう」という感覚で動くのは危険なので、必ず専門家と一緒に設計してください。
持株会社スキームで配当を非課税で受け取る
M&A後の出口戦略として、持株会社(ホールディングス)を使うスキームも有効です。
子会社からの配当を持株会社が受け取る場合、法人間配当の「益金不算入制度」が適用されます。完全子会社からの配当であれば、受け取った配当の全額が益金不算入、つまり事実上の非課税となります。
買収した会社が毎年5,000万円の配当を出せる体力があるなら、持株会社スキームを使えばその配当に法人税がかからずグループ内に資金を蓄積できます。これを個人で受け取ろうとすると高率の所得税・住民税がかかることを考えると、差は歴然です。
「高い買い物」で終わらせないために
5つのメリットを並べてみましたが、これらは「知っているだけ」では意味がありません。M&Aのストラクチャーを設計する段階から税務を組み込んでこそ効果が出ます。
年商10億を超える規模の買収であれば、これらの組み合わせで1億円以上の節税効果になるケースは決して珍しくありません。逆に言えば、何も考えずに買収してしまうと、それだけの「取りこぼし」が生まれているということでもあります。
M&Aを検討中、あるいはすでに買収済みで「税務をちゃんと見直したい」という社長は、ぜひM&A専門の税理士に一度相談してみてください。買収後でも、再編スキームを組み直すことで効果を取りに行けるケースはあります。大事な投資を、最大限に活かしてほしいと思います。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。