先日、年商12億円の建設業を営む社長からこんな相談を受けました。

「毎期ちゃんと利益が出ているのに、手元に残るお金が全然増えない。税金だけがどんどん増えていく気がして…」

この悩み、規模が大きくなるほど多くの経営者が口にします。でも実は、これは経営の問題ではなく、会社の構造そのものの問題だったりします。

「1社に利益を集める」は最も税負担が重いパターン

利益を1つの法人に集め続けると、法人税の実効税率はおおよそ30〜34%前後で推移します。さらに役員報酬を上げて手元に残そうとすれば、今度は所得税・住民税が累進でのしかかってくる。

年間利益が1億円を超えてくると、この「どこに逃げても税金」の感覚が強くなります。これは努力や節税テクニックの問題ではなく、お金の流れを設計する「構造」の話です。

構造が間違っていれば、どんな節税策を打っても焼け石に水になってしまいます。

持株会社(ホールディングス)を使った分散の発想

ここで登場するのが、持株会社を頂点に置くグループ構造です。

具体的なイメージとしては、まず「A ホールディングス」という持株会社を設立し、その傘下に事業会社B・事業会社Cを置く形です。各事業会社で生まれた利益はグループ内で分散され、累進課税の圧力を分散させることができます。

例えば、1社に集まっていた年間利益1億円を3社に分散させたとします。1社あたりの課税所得が下がることで、法人税の実効税率に対する圧力が変わります。理論上、このスキームで年間2,000万〜3,000万円ほどの税負担差が生まれたケースも実際に存在します。

もちろん、単純に会社を増やせばいいという話ではありません。事業の実態を伴わない分割は税務否認のリスクがありますし、設計次第で逆効果になることもあります。「分散」は手段であって、目的は「最適な構造を作ること」です。

グループ通算制度という強力な武器

2022年4月から「連結納税制度」が改組され、グループ通算制度がスタートしました。

これは何かというと、グループ内で黒字の会社と赤字の会社があった場合に、その損益を通算して税負担を計算できる仕組みです。たとえば、子会社Bが1億円の黒字、子会社Cが3,000万円の赤字だとすれば、課税対象は差し引き7,000万円ということになります。

新規事業の立ち上げ期や、設備投資が重なる子会社を抱えているグループでは、この仕組みが特に強力に機能します。黒字子会社の税負担を、赤字子会社の損失で合法的に吸収できるのです。

役員報酬・配当との組み合わせが「手取り最大化」のカギ

持株会社スキームの面白いところは、税負担の圧縮だけでなくキャッシュの流れの最適化も同時にできることです。

持株会社が子会社から受け取る配当は、受取配当等の益金不算入制度の対象になります。つまり、子会社が利益を配当として持株会社に上げても、そのほとんどが法人税の課税対象にならない。

さらに、持株会社から個人オーナーへの役員報酬・配当の比率を最適化することで、所得税・社会保険料のバランスも調整できます。「どこでどれだけ税金を払うか」を設計できるのが、グループ構造の最大のメリットといえます。

M&A・事業承継でも「先に作っておく」が正解

もう一つ、持株会社化を早めに進めるべき理由があります。それがM&Aと事業承継への備えです。

将来的に会社を売却したい、あるいは子供に承継したいと考えているなら、持株会社化は今すぐ検討すべきテーマです。持株会社の株式を通じて事業会社の支配権を移転することで、株価の算定方法や贈与・相続の設計が格段に柔軟になります。

特に非上場会社の株価は、利益が積み上がるほど高くなります。「売却・承継を考え始めてから持株会社を作ろう」では手遅れになることが多い。株価が低いうちに構造を整えておくことが、長期的な節税・承継コスト圧縮につながります。

「利益が出てから考える」では遅すぎる

持株会社スキームは、設計・設立・実際の効果が出るまでに一定の時間がかかります。税務上の要件を満たしながら適切に運用するには、少なくとも1〜2期分の準備期間を見ておく必要があります。

「今期は利益が出そうだから来期に向けて動こう」ではなく、利益が出る前に構造を作ることが本質です。構造が先、節税は後からついてくる、という順番を忘れないでください。

もし現在、利益のほぼすべてが1つの法人に集中している状態であれば、今期中に一度グループ設計の相談をすることを強くおすすめします。年商が大きくなればなるほど、構造変更の効果は大きくなりますし、逆にやり直しのコストも増えていきます。

動くなら、早いほどいい。これが持株会社戦略の鉄則です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。