先日、都内で複数の投資用不動産を持つ社長から、こんな相談を受けました。「ハワイにコンドミニアムを買って、個人名義で賃貸に出しているんだけど、毎年の確定申告が思ったより重くて……」

その社長、年間の家賃収入は約3,000万円。でも手元に残る感覚が薄い、とおっしゃっていました。話を聞いてみると、原因はすぐわかりました。個人で海外不動産を持っていると、家賃収入に最大55%の所得税・住民税がかかることがあるんです。


個人と法人、税率の差は「660万円」になる

日本の所得税は累進課税です。役員報酬などと合算されると、海外物件の家賃収入にも最高税率がそのままかかってきます。所得税45%に住民税10%を足せば、実質的な税負担は55%に達することも珍しくありません。

一方、法人で海外不動産を保有した場合の実効税率は、おおむね33%前後に収まります。この差、年間家賃収入が3,000万円あれば単純計算で約660万円。10年持ち続けるなら6,600万円の差になります。「法人で持てばよかった」と後から気づいても、移転には不動産取得税や登録免許税がかかる。だからこそ、買う前の段階で判断しておくことが大切なんです。


減価償却の「使い方」が法人ではまるで違う

税率の差だけでなく、減価償却の自由度も法人のほうが圧倒的に高いです。

日本国内の中古物件は、築年数によって償却期間が制限されます。しかし海外物件の場合、現地の法定耐用年数を使うケースがあり、築年数が古くても短期で償却できる構造になっていることがあります。

具体的には、取得初年度に億単位の減価償却費を計上し、それを法人の他の利益と相殺するというスキームが存在します。たとえば国内事業で年間2億円の利益が出ている会社が、海外物件の初年度償却で1.5億円の損失を作れれば、課税対象は一気に圧縮できます。このような大型スキームは、不動産SPCを活用する場面でも見られます。

もちろん、こうした節税は「使える条件」が細かく決まっています。どの物件でも、どの法人でも使えるわけではありません。


タックスヘイブン対策税制には要注意

ここまで読んで「じゃあ海外に子会社を作って物件を持たせれば完璧では?」と思った方、少し待ってください。

日本には**タックスヘイブン対策税制(特定外国子会社合算ルール)**という規定があります。租税負担率が低い国や地域に設立した外国子会社の所得を、一定の条件下で親会社の所得に合算して課税するという制度です。

適用されると、節税どころか二重に課税されるリスクが生じます。現地で法人税を払ったうえに、日本でも課税される——そういう事態は絶対に避けなければなりません。

さらに、現地国での源泉税も見落としがちなポイントです。たとえばアメリカでは不動産賃貸収入に対して30%の源泉税が課されることがあります。日米租税条約で軽減できる部分もありますが、条約の内容は国ごとに異なるため、どの国に投資するかによって税負担の構造はまったく変わってきます。


「スキームの魅力」だけで動くのが一番危ない

海外不動産の節税スキームを勧める業者の中には、税制の「旨味」だけを強調して、リスクの説明が薄いケースがあります。

買った後で「タックスヘイブン税制に引っかかる」「現地の源泉税が予想より高い」「二重課税の還付手続きが複雑すぎる」——こういったトラブルに巻き込まれた社長を、私は何人か見てきました。

大切なのは、スキームの入口だけでなく、出口(売却時)、運用中のキャッシュフロー、現地と日本双方の税務申告コストまで含めたトータルの収支で判断することです。


専門家の選び方も、実は重要

海外不動産の税務は、国内税務とはまったく別の知識体系が必要です。国内不動産に詳しい税理士が、必ずしも国際税務に精通しているわけではありません。

相談する際は「国際税務の経験がある税理士」もしくは「海外投資家向けの不動産スキームを扱ったことがある法律事務所・税理士法人」を選ぶことをおすすめします。費用は多少かかっても、事前の専門家相談が数百万円単位の損失を防ぐことになります。


すでに海外物件を個人名義で持っている方は、今すぐ法人への移転が最善とは限りませんが、現状の税負担を一度きちんと試算してみることを強くおすすめします。「なんとなく毎年払っている」では、気づかないうちに税務署に丸儲けさせている可能性があります。

今期の決算が終わったタイミングで、国際税務に強い専門家に一度相談してみてください。それだけで、来期以降の手取りが大きく変わるかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。