先日、ある社長からこんな相談を受けました。
「ビットコインを法人名義で買ったんですが、決算でえらいことになりそうで……」
年商3億円のIT系企業を経営する40代の社長です。「法人で暗号資産を持てば節税になる」という話をどこかで聞いて、昨年の夏ごろに数千万円分を購入したとのこと。ところが、決算直前になって税理士から「含み益に税金がかかります」と言われ、青ざめたそうです。
暗号資産と法人税の組み合わせは、知っている人と知らない人とで、手取りに何百万円もの差が生まれます。今日はそんな「法人で暗号資産を持つと損する」典型パターンを3つ、お伝えします。
期末に「売っていないのに」税金が発生する
最初にして最大の衝撃ポイントがここです。
法人が暗号資産を保有している場合、事業年度末の時点で時価評価が行われます。つまり、1BTCを500万円で買って、期末時点で800万円になっていれば、売っていなくても300万円の利益として計上され、法人税の課税対象になるのです。
法人実効税率はおよそ34%。300万円の含み益があれば、約100万円の税負担が生まれます。キャッシュは手元にないのに、です。
個人が暗号資産を持つ場合は、売却や使用のタイミングで初めて課税されます。この違いを知らずに「法人の方が節税になる」と思い込んでいる社長は、実は少なくありません。
もちろん、期末に含み損があれば損失として計上できるメリットもあります。ただし「都合の良いときだけ時価評価」とはいかないのが税務の世界。どちらに転ぶかは、保有タイミングと相場次第です。
損失の「計上タイミング」を間違えると申告ミスになる
「じゃあ、損が出たときはちゃんと損益通算できるんでしょ?」
そう思った方、半分正解です。法人の暗号資産売却損は、原則として他の所得と損益通算できます。ここは個人よりも有利な点のひとつ。
ただし、問題は計上タイミングです。
暗号資産の売買は24時間365日行われており、年をまたぐ取引や複数の取引所を使っている場合、損益の確定タイミングが曖昧になりがちです。「この損失は今期分か、来期分か」という判断を誤ると、節税どころか過少申告・過大申告につながります。
税務調査で指摘されるケースも出てきており、「なんとなく入力した」では済まない時代になっています。取引履歴の管理と、会計処理のルール統一は、法人で暗号資産を持つなら最低限やっておくべき準備です。
「個人か法人か」の使い分けを知らないと、どちらも中途半端になる
ここが、最も本質的な話です。
法人保有と個人保有、どちらが有利かは「何を目的に持つか」によって変わります。
たとえば、長期保有で含み益を大きく育てたい場合、個人だと売却時に総合課税として最大55%の税率がかかるケースもあります。一方、法人であれば利益を内部留保しながら他の経費と相殺できる余地があり、設計次第では有利になることもあります。
ところが、短期売買を繰り返すトレード目的なら話は別です。法人では毎期の時価評価が足を引っ張るため、売買益を個人で認識した方がシンプルに有利なケースも多い。
さらに年商10億円を超えてくるような規模になると、持株会社を経由したスキーム設計が視野に入ってきます。資産管理会社に暗号資産を移し、オーナーへの所得移転を最適化する構造です。ただしこれは、設計を誤ると税務リスクが跳ね上がる高度な領域。「やってみた」では絶対に済みません。
暗号資産は「持ち方」で税負担が大きく変わる
結局のところ、暗号資産の税務で大切なのは「何となく法人で持つ」ではなく、目的・規模・保有期間に合わせた設計をすることです。
- 長期保有で含み益が大きいなら、法人保有のメリットを活かせる設計を
- 短期のトレードが中心なら、個人保有の方がシンプルに有利な場合も
- 年商10億超なら、持株会社スキームを専門家と一緒に検討する
暗号資産は動きが速く、税制も整備の途上です。昨年の常識が今年には変わっていることも珍しくありません。
「なんとなく節税になりそう」という感覚で動くのが、最も危険です。決算期が近づいてきたら、一度、暗号資産の保有状況と税務処理を棚卸ししてみてください。まだ整理できていないなら、今期中に専門の税理士と一緒に確認しておくことを強くおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。