先日、ある社長からこんな相談を受けました。
「10年前に保険屋さんから勧められた名義変更プラン、そろそろ使おうと思っているんだけど、大丈夫ですよね?」
正直、背筋が冷たくなりました。その社長が描いていた「退職金代わりの節税プラン」は、すでに国税庁に完全に封じられている手法だったからです。
名義変更プランとは何だったのか
法人保険の名義変更プランとは、簡単に言うと「法人が契約した保険を、解約返戻金が低い時期に個人(社長)へ低価格で名義変更し、その後個人として高い解約返戻金を受け取る」という仕組みです。
一時期は多くの保険会社が堂々と提案していたスキームで、うまく使えば数千万円単位の節税効果があると言われていました。実際、このプランに乗っかった経営者は少なくありません。
ただ、国税庁はずっとこの手法を問題視していました。そして2019年以降、明確に規制の網をかけ始めます。
2021年の通達改正で「完全アウト」になった
決定的だったのは2021年の通達改正です。これにより、解約返戻金が高い時期に名義変更が行われた場合、名義変更時の実質的な経済的価値に対して給与課税されることが明文化されました。
具体的なケースで考えてみましょう。
解約返戻金が最終的に5,000万円になる保険契約があるとします。低解約返戻期間中に名義変更すれば、帳簿上の価格は20%程度、つまり1,000万円で移転できるかもしれません。しかし税務当局は「実質的な価値は5,000万円だ」と判断し、差額の4,000万円を給与として課税してきます。
これだけでも相当なダメージですが、さらに追徴課税に加えて過少申告加算税や延滞税まで乗ってくる。結果として節税どころか、プランを使わなかった場合より多くの税金を払うことになった社長が実際に出ています。
「昔の契約だから大丈夫」は通じない
ここで注意してほしいのは、「契約したのが規制前だから問題ない」という考え方は通用しないという点です。
課税のタイミングは名義変更を実行した時点です。契約自体がいつのものかは関係ありません。10年前に契約した保険でも、今日名義変更すれば現在のルールが適用されます。
冒頭の社長がまさにそのケースで、「10年間積み上げてきた解約返戻金を退職金に使おう」と思った矢先に、このリスクを知ることになりました。実行前に気づけたのは不幸中の幸いです。
では、正しい退職金設計はどうすればいいのか
名義変更プランが使えない今、法人保険を活用した退職金設計の正攻法は何かというと、シンプルに「保険を法人で解約し、その解約返戻金を退職金の原資として正規に支払う」という方法に戻ります。
ポイントになるのは、以下の3つです。
- 退職金規程を整備しておくこと:支払いの根拠が明確でなければ、退職金として認められないリスクがあります
- 保険の設計と退職時期を連動させること:解約返戻率のピークと社長の退職予定時期を合わせた設計が必要です
- 逓増定期保険や経営者保険を正しく組み合わせること:節税効果のある保険商品は今も存在しますが、出口設計が肝になります
特に退職金規程は「あとで作ればいい」と後回しにされがちですが、税務調査が入ったときに最初に確認されるのがこの書類です。保険の設計より先に整えておくべき土台です。
保険屋さんだけに任せてはいけない理由
法人保険の設計は、保険の専門家であるFPと、税務の専門家である税理士、両方の目を通すことが不可欠です。
保険会社の担当者は優秀な方が多いですが、税務リスクの判断は彼らの業務範囲外です。逆に税理士は保険商品の細かい仕組みに詳しくないこともある。両者をつなぐ視点がなければ、抜け穴のある設計になってしまいます。
特に退職が近づいてきた社長ほど「早く決めなければ」と焦りがちですが、焦って動いた結果に追徴課税というのが最悪のパターンです。1〜2年の余裕を持って、専門家と一緒に設計を見直すことを強くおすすめします。
法人保険を使った節税は、正しく設計すれば今も有効な手法です。ただし「昔ながらのプラン」をそのまま使おうとしているなら、一度立ち止まって確認してみてください。その確認が、億単位の損失を防ぐことになるかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。