先日、海外グループ会社との取引を持つ製造業の社長から、こんな相談を受けました。
「シンガポールの関連会社にロイヤルティを払っているんですが、毎回20%引かれて送金されていて……これって取り戻せないんですか?」
結論から言うと、取り戻せます。というより、そもそも最初から引かれなくて済む方法があります。それが「租税条約」の活用です。
海外へのロイヤルティ、デフォルトは20%課税
日本の税法では、国内から海外へロイヤルティを支払う際、原則として20.42%の源泉税を差し引いてから送金するルールになっています。
たとえば年間1億円のロイヤルティ契約があるなら、相手の手元に届くのは約8000万円。残り2000万円は税務署へ納付されます。何もしなければ、これが毎年続きます。
「払うのは仕方ない」と思っている社長が多いのですが、じつはそうではありません。
租税条約を使えば、税率はゼロになることも
日本は現在90以上の国・地域と租税条約を締結しています。この条約の中に「源泉税率の上限」が定められており、国内法より低い税率が適用される場合があります。
たとえば日本とシンガポールの間では、ロイヤルティに対する源泉税率は最大でも10%。さらに一定の条件を満たせば、0%になるケースも存在します。
先ほどの例で計算すると、年間ロイヤルティ1億円・税率0%なら、納税額はゼロ。20%との差額は2000万円です。これが5年続けば1億円の差になります。
「条約があるなら自動的に適用されるんでしょ?」と思われるかもしれませんが、残念ながらそうではありません。
適用には「手続き」と「実態」の両方が必要
租税条約の恩恵を受けるには、まず支払い前に「租税条約に関する届出書」を税務署に提出する必要があります。手続きを怠ると、条約があっても国内法の20%が適用されてしまいます。
そして、より重要なのが「受益者要件」と呼ばれる概念です。
これは簡単に言うと、「ロイヤルティを受け取る側が、経済的な実態を持った本当の受益者であること」を求めるものです。つまり、形だけ設立したペーパーカンパニーを間に挟んで条約の恩恵を取ろうとしても、税務当局に否認されるリスクが非常に高いということです。
具体的には以下のような点が問われます。
- 受取法人に実際の従業員・オフィス・事業活動があるか
- 受け取ったロイヤルティを自社の事業判断で使える立場にあるか
- 単なる「導管」として機能しているだけではないか
実態のある法人でなければ、条約の適用は認められません。この点を甘く見ると、後から多額の追徴課税を受けることになります。
「節税」と「脱税」を分けるのは実態の有無
租税条約の活用は、適切に設計されれば完全に合法の節税手法です。ただし、その設計を間違えると途端に脱税スレスレの危険地帯に踏み込むことになります。
ポイントは「形だけ整えるのではなく、経済的な実態を作ること」です。シンガポールや香港に法人を設立すること自体は問題ありません。その法人が本当に機能しているかどうかが問われます。
国際税務の分野は、国内の税務とはルールの複雑さが段違いです。一般的な顧問税理士では対応が難しいケースも多く、国際税務を専門とする税理士と一緒に設計することが前提になります。
今すぐ確認してほしいこと
もし現在、海外グループ会社や海外パートナーへロイヤルティ・ライセンス料を支払っているなら、まず以下の点を確認してみてください。
- 支払先の国と日本の間に租税条約があるか
- 届出書の手続きは適切に行われているか
- 受取側の法人に十分な実態があるか
この3つを整理するだけで、「今まで無駄に払っていた税金」が見えてくることがあります。
年間のロイヤルティが数千万円を超えるなら、専門家への相談コストなど、節税額に比べれば微々たるものです。まだ手をつけていないなら、今期中に一度、国際税務の専門家に現状を診てもらうことを強くおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。