「保険で節税できると聞いて毎年800万円払っているんですが、本当に得しているんでしょうか?」
先日、年商3億円の建設業の社長から、こんな質問を受けました。顧問税理士に勧められるまま契約して3年が経ち、ふと疑問に思ったのだそうです。
その疑問、正解です。
「節税」と「繰り延べ」はまったく別物
多くの経営者が誤解していますが、法人保険の「節税効果」という言葉は、厳密には半分正解で半分は誤解です。
保険料を損金算入すれば、今期の利益が圧縮されて法人税の支払いは確かに減ります。これは事実。ただし、その税金は消えたわけではなく、将来に先送りされているだけなんです。
年間1,000万円の保険料を損金計上して法人税率34%で計算すると、今期の節税額は約340万円。一見大きく見えますが、残り660万円分の税負担はどこにも消えていません。保険金や解約返戻金を受け取るタイミングで雑収入として計上され、そこでまとめて課税されます。
つまり税金を先送りしているだけで、総額ではほとんど変わらない。これが法人保険の「節税」の正体です。
では、なぜ法人保険に意味があるのか
「それじゃあ保険に入る意味はないの?」と思うかもしれません。でも、それも違います。使い方次第で、まったく別の話になるからです。
鍵は「誰が解約返戻金を受け取るか」という設計にあります。
法人がそのまま受け取れば、普通に法人税がかかります。繰り延べの恩恵しか受けられない。でも、解約返戻金を退職金の原資として経営者個人に渡す設計にすると、話がまったく変わります。
退職所得控除という「最強の優遇」
日本の税制には、退職所得に対して非常に大きな優遇制度があります。
勤続年数が20年を超える場合、「70万円×(勤続年数−20年)+800万円」が控除額になります。勤続30年なら1,500万円が控除対象です。しかもこの控除を引いた後の金額に対して、さらに2分の1にしてから課税されます。
給与や役員報酬と比べると、いかに圧倒的な優遇かがわかります。同じ金額を役員報酬で受け取るのと、退職金で受け取るのとでは、手取りが何百万円も変わることがあります。
返戻率85%の保険と退職金を組み合わせると
ここで具体的に考えてみましょう。返戻率85%の法人保険に毎年1,000万円ずつ10年間払い込んだ場合、総保険料は1億円です。解約時に戻ってくるのは8,500万円。法人としては差し引き1,500万円の差損になります。
ただし、10年間の損金算入で累計約3,400万円の法人税を先送りにしてきた。そしてこの8,500万円を退職金として経営者に支払う。退職所得控除と2分の1課税の優遇を使えば、個人の税負担は給与課税と比べて大幅に圧縮されます。
法人税の先送り×個人への課税優遇、この二重の効果が合わさることで、単なる繰り延べでは終わらなくなるんです。正しく設計できれば、実質2,000万円を超える節税効果が出るケースも珍しくありません。
設計を間違えると逆に損をする
ただし、これはあくまで「設計が正しかった場合」の話です。
返戻率の低い保険を選んでいたり、退職のタイミングや退職金の金額を事前に計算していない場合は、むしろ損をするケースもあります。また2019年の国税庁通達改正以降、損金算入できる保険の種類や割合が大きく制限されています。昔のルールで設計されたままになっている契約は、今すぐ確認が必要です。
今の契約を見直す3つのポイント
現在、法人保険に加入されているなら、以下の3点を確認してみてください。
- 保険料の損金算入割合が現行ルール(2019年以降)に対応しているか
- 解約返戻金の受け取りが退職金設計と連動しているか
- 退職金の支払い時期と会社の資金繰りが整合しているか
設計次第で、同じ保険料を払い続けても手元に残るお金が数千万円変わります。「保険を入れているから節税できている」と安心しているなら、一度立ち止まって見直してみてください。
まずは顧問税理士に「この保険は退職金設計と連動していますか?」と一言聞いてみることをおすすめします。その答えひとつで、大きな発見があるはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。