「先生、香港に法人を作れば税金をかなり圧縮できると聞いたんですが、どう思いますか?」

先日、年商10億円ほどの製造業の社長から、そんな相談を受けました。知人のコンサルタントから「香港法人に利益を移せば法人税が大幅に下がる」「マレーシアに住所を移せば日本の所得税がかからない」と勧められているとのこと。

その場で、こうお伝えしました。「今すぐ手を止めてください」と。

2017年から始まった「世界規模の監視網」

かつての海外節税スキームが機能したのは、日本の税務当局が海外口座の情報を把握しにくかったからです。でも今は違います。

2017年、CRS(共通報告基準) という国際的な情報交換の仕組みが本格的にスタートしました。現在100カ国以上が参加しており、各国の金融機関が口座保有者の残高・取引情報を自国の税務当局に報告し、それが参加国間で自動的に交換されます。

つまり、香港やシンガポール、マレーシアの銀行に口座を開いた瞬間、その情報は日本の国税庁に届くということ。「海外ならバレない」という前提は、根本から崩れています。

税務署が今、何を見ているか

国税庁は毎年、「租税回避スキームへの対応」を重点調査項目のひとつに挙げています。海外法人への利益移転、実態のない役員報酬の支払い、ペーパーカンパニーを使った所得隠し——こうした構造に対して、調査官は熟知したうえで税務調査に臨んできます。

「スキームの中身が合法かどうか」ではなく、「当局への情報が遮断できているか」という言葉でリスクを説明するコンサルタントがいたとしたら、それ自体が危険なサインです。

重加算税35%が乗ってくる怖さ

通常の過少申告加算税は10〜15%です。ただし、仮装・隠蔽と認定された場合は**重加算税35%**が本税に上乗せされます。

仮に5,000万円の税金を海外スキームで隠していた場合、追徴の内訳はこうなります。

  • 本税:5,000万円
  • 重加算税(35%):1,750万円
  • 延滞税(調査対象期間が長いほど膨らむ):数百万円単位

合計で7,000万円を超える追徴になることも珍しくありません。さらに悪質と判断されれば、刑事告発の可能性も排除できません。億単位の追徴税額を受けた経営者の事例は、税務の世界では実際に存在します。

「スキームを作った人間は逃げる」

海外節税スキームを紹介するコンサルタントは、初期費用や成功報酬を受け取った時点で、責任を果たしたと考えているケースがあります。

税務調査が入るのは、スキームを始めてから3〜7年後が多い。その頃にはコンサルタントとの関係は希薄になっており、追徴課税の矢面に立つのは社長ひとりです。

節税の相談をする相手は、税務調査の実務経験がある税理士や、国際税務に精通した専門家に限るべきです。「大丈夫です、うまくやります」という言葉は、何の保証にもなりません。

合法的な海外活用と、アウトな構造の違い

誤解してほしくないのは、海外を活用した節税のすべてがNGというわけではないことです。実態のある海外拠点の設立や、適切な移転価格対策など、合法的に活用できる手段は存在します。

違いは「実態があるかどうか」です。社長が年に数回しか訪問しない香港法人は、税務調査で実態なしと判断されるリスクが高い。形式が整っていても、経済的実質を伴わない利益移転は否認されます。

「節税額が大きいほど、リスクも大きい」——この原則を、常に頭に置いておいてください。

海外節税を勧められたら確認すること

もし今、海外節税スキームを勧められているなら、相手に以下を確認してみてください。

  • その人は税理士登録をしているか
  • 類似スキームで税務調査を受けた事例を把握しているか
  • CRSや租税条約について具体的な説明ができるか
  • 最悪ケースの追徴額シミュレーションを出せるか

ひとつでも答えられないなら、立ち止まって国際税務の経験がある税理士に相談することを強くおすすめします。今、正しい判断をすることが、5年後・10年後の会社を守ることに直結します。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。