先日、シンガポールに法人を設立して節税していると話してくれた経営者と食事をしました。「海外に置いておけば、日本の税務署にはわからないから」——そう自信満々に語っていたのですが、正直、冷や汗が出ました。
その情報、もうとっくに国税庁に届いています。
毎年、100カ国超から情報が「自動送信」されている
2017年から日本が参加している**CRS(共通報告基準)**というルールをご存知でしょうか。
CRSとは、各国の税務当局が口座情報を自動的に交換し合う国際的な枠組みです。シンガポール、ドバイ、スイス、ケイマン諸島……いまや100カ国を超える国と地域が参加しています。
仕組みはシンプルです。あなたが海外の金融機関に口座を持っていると、その口座の残高・利子・配当・売却益が、毎年自動的に日本の国税庁へ報告されます。あなたが申告するかどうかに関係なく、です。
「口座を持っているだけで報告されるの?」と驚く方も多いのですが、そうなのです。しかも相手国の金融機関は義務として報告していますから、漏れがほとんどない。「バレなかった時代」は、もうとっくに終わっています。
5年分が「蓄積」されてから動く
「じゃあ、なぜすぐ捕まらないのか」という疑問が出るかもしれません。
これが少し厄介なところで、国税庁は情報を受け取ってもすぐには動きません。毎年届くデータを蓄積しておき、ある程度まとまった時点で調査に着手するのが実態です。
日本の税務調査には除斥期間というものがあり、通常は5年さかのぼって追徴できます。仮装や隠蔽——つまり意図的な脱税と認定されると、これが7年に延びます。
今年は何も言われなかったとしても、5年分・7年分のデータが積み上がった段階で一括追徴されるリスクがある。「3年間何もなかったから大丈夫」という油断が、最もまずいパターンです。
発覚したときのダメージは想像以上
実際に税務調査が入った場合、本来の税額だけでは済みません。
申告漏れがあれば**過少申告加算税が10〜15%**上乗せされます。そして意図的な隠蔽と判断されれば、重加算税35%が課されます。さらに年8%前後の延滞税も加わりますから、追徴額の合計は相当な金額になります。
5年分の所得税・法人税の追徴に、加算税と延滞税を足した総額を想像してみてください。「知らなかった」「税理士に任せていた」という言い訳は、残念ながら通りません。そして見落としがちなのが、国内での信用リスクです。税務調査が入ったという事実は、取引先や金融機関との関係にも影響することがあります。
「合法的な海外節税」との境界線
誤解のないように書いておくと、海外に会社を作ること自体が違法なわけではありません。問題は、実態が伴っているかどうかです。
たとえば、実際にシンガポールに居住し、事業の意思決定もそちらで行っているなら、適法に税負担を軽減できる場合があります。一方、日本に住みながら名目だけの海外法人を使って所得を移転させると、実質的な管理支配地が日本と判断され、日本での課税対象となります。
この「実態があるかどうか」の判断は非常に繊細で、専門家でも意見が分かれるケースがあります。ネットの情報やセミナーで「これをやれば節税できる」と勧められても、そのまま鵜呑みにするのは危険です。
今すぐ確認しておくべきこと
海外に口座や法人を持っている、あるいは検討している経営者の方は、まず以下の点を確認してください。
- その口座・法人は、CRS参加国に所在しているか(ほぼすべての主要国が対象)
- 日本での申告義務(財産債務調書、国外財産調書)を正しく果たしているか
- 現在のスキームに、税務に強い専門家がついているか
「やましいことはしていない」という方でも、申告漏れが発生しているケースは少なくありません。CRS報告が国税庁に届いている以上、申告と情報が一致しているかを確認しておくことが重要です。
海外節税を検討中の方も、すでに運用中の方も、一度信頼できる税理士に現状をチェックしてもらうことを強くおすすめします。データは毎年蓄積されていますから、動くなら早いほど選択肢が多い。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。