先日、ある製造業の社長からこんな相談が来ました。「毎年決算前に法人保険を使っているんだけど、最近、担当の生保レディが変わって『このやり方、今でも大丈夫ですよね?』と聞かれた。どういうこと?」

実はこれ、決して笑えないサインです。

2019年7月に国税庁が通達を改正したことで、長年「当たり前」だった節税スキームがいくつか根こそぎ廃止されています。問題は、廃止されたと知らずに今も使い続けている会社が少なくないこと。そして意図せず旧スキームのまま処理を続けていた場合でも、税務調査で「仮装・隠蔽」と認定されれば重加算税35%が課されるリスクがある、という点です。

今回は、廃止・実質無効になった節税スキームのうち、中小企業の経営者が特に気をつけたい3つを取り上げます。

法人保険の「全額損金」「1/2損金算入」

かつて定番中の定番だったのが、逓増定期保険長期平準定期保険を使った損金算入スキームです。保険料の全額または1/2を損金に落としながら、満期・解約返戻金で資金を回収するという設計で、「節税と積立が同時にできる」として多くの中小企業に広まりました。

ところが2019年7月8日、国税庁の通達改正によってこのスキームは実質廃止されました。

現在のルールでは、最高解約返戻率によって損金算入できる割合が細かく区分されています。返戻率70%以下なら全期間で全額損金が認められますが、85%超の商品は契約前半の損金算入が大幅に制限されます。「とりあえず全額損金で」という処理は、2019年7月以降の契約にはもうできません。

もし2019年7月以降に締結した契約に旧ルールを適用したまま処理を続けているなら、今すぐ顧問税理士に確認することをおすすめします。

短期払いの節税保険(実態なき積立系)

法人保険に関連して、もう一つ気をつけたいのが短期払いの逓増定期保険です。

2020年前後に、「保険料を5年で払い込み、解約返戻金を退職金代わりに活用する」という設計の商品が複数出回りました。一時期は損金処理の扱いが曖昧なまま販売が続きましたが、その後、国税庁の確認・指導が入り、「節税効果なし」または要注意商品として整理されています。

「担当者に勧められて入ったけど、その後の処理が合っているかわからない」という場合は、契約内容と経理処理を一度棚卸しするのが先決です。保険会社の担当者ではなく、税理士に確認するのがポイントです。

実態を伴わない役員退職金

退職金は損金算入が認められるため、役員退職金を使った節税は古くから行われてきました。ただし近年、「退任の実態がない」役員退職金を否認されるケースが明らかに増えています。

典型的なのは、代表を退任したように見せながら実質的な経営権を持ち続けるパターンです。税務調査では、役職変更の実態・関与の程度・報酬の変化などが細かく確認されます。「書類上は退任」でも、実態が伴っていなければ仮装行為と判断され、重加算税の対象になりえます。

重加算税35%は「悪意があったかどうか」ではなく、「仮装・隠蔽の事実があったかどうか」で課されます。知らなかったという事情は、基本的に考慮されません。

廃止スキームを続けると何が起きるか

税務調査で問題が発覚した場合、コストは本税だけではありません。重加算税(本税の35%)、延滞税(年利最大14.6%)、そして過年度分の本税が一気に積み重なります。

3年前の処理が問題視された場合、これらが複合的にのしかかってきます。「あの時の担当者に言われた通りにしただけ」は、自社の税務責任を免除する理由にはならないのが現実です。節税のつもりで入った保険が、結果として追加で数百万円のコストを生む——そういうケースが税務調査の現場では珍しくありません。

今すぐ確認したい3つのこと

制度の変化をすべて自力で追うのは難しいですが、最低限これだけは押さえておきましょう。

まず、現在加入している法人保険の契約日と、損金処理の根拠を確認すること。次に、顧問税理士に「2019年以降の通達改正を踏まえた処理になっているか」を明示的に確認すること。そして、役員退職金を将来的に活用するなら、退職の実態(代表権の移転・報酬の変化)を今から文書で記録しておくことです。

廃止されたスキームを使い続けることのリスクは、節税額をはるかに上回ります。今期の節税策を考える前に、まず「今使っているスキームが現行ルールに合っているか」を確認するのが最優先です。決算を前に慌てて確認するより、今やっておく方がずっと安くつきます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。