先日、年商8億円の製造業の社長から「税務調査が入って、数年前に使っていた節税スキームが問題になった」という相談を受けました。
使っていたのは当時流行っていた法人保険のスキーム。担当税理士も「これは大丈夫」と太鼓判を押していたそうです。それでも重加算税が課され、節税効果が完全に消えた上にマイナスになってしまったと、青ざめながら話してくれました。
「知らなかった」が通じない時代に、私たちはすでに入っています。
国税庁はスキームの情報を年間3,000件超集めている
意外と知られていないのですが、国税庁には節税スキームの通報制度があります。タックス・ヘイブンや怪しい節税商品の情報提供を受け付けるこの窓口に、年間3,000件を超える情報が集まります。
金融機関、コンサル会社、そして元社員からの内部告発まで、様々なルートで情報が届きます。つまり「うちだけこっそりやっている」と思っていても、すでに国税のデータベースに入っている可能性が十分あるのです。
さらに厄介なのがKSK(国税総合管理)システムです。全国の申告データを一元管理し、同じスキームを使っている法人を名寄せする能力を持っています。「うちだけを狙っているわけではないから大丈夫」という考えは通用しません。むしろ同じスキームを使っている会社をまとめて調査するのが、今の国税の手法です。
今すぐ確認すべき「5つの危険スキーム」
特に年商5億円以上の中小企業オーナーが使いがちで、国税が注目しているものを整理します。
① 旧制度の法人保険
2019年の通達改正前に契約した「全額損金型」の法人保険です。改正後は税制が変わりましたが、改正前の契約をそのまま持ち続けている会社は要注意です。保険の解約返戻金を役員退職金で受け取る設計自体は違法ではありませんが、実態が伴わない「お金のぐるぐる回し」と判断されると問題になります。
② 画一的なオペレーティングリース
航空機や船舶を使ったオペレーティングリースは、適切に活用すれば正当な節税手法です。ただし、スキーム会社が用意した型どおりの「パッケージ商品」を何も考えずに購入する形は、国税に目をつけられやすい。事業実態があるかどうかが判断の分かれ目です。
③ 海外移転価格スキーム
海外子会社に利益を移転する「移転価格スキーム」は、大企業だけの話ではなくなっています。年商10億円前後の中堅企業でも海外拠点を使った節税を勧めるコンサルが増えており、移転価格税制の適用対象になるケースが出てきています。独立企業間価格に基づく根拠資料を整備していないと、後から追徴課税を受けるリスクがあります。
④ 不動産SPCを使った所得分散
SPC(特別目的会社)を使って不動産収入を分散させる手法も、実態のない法人への所得移転と判断されると否認されます。家族への給与や役員報酬の活用自体は問題ありませんが、労務実態が書類で証明できるかどうかが鍵になります。
⑤ 役員報酬・退職金の過大計上
実際には働いていない家族への高額報酬、または業績と乖離した役員退職金の水増し。これらは「仮装・隠蔽」と判断されやすく、重加算税の対象になります。
「仮装・隠蔽」と判断されると何が起きるか
通常の申告漏れであれば、追徴税額に対して10〜15%の過少申告加算税が課されます。しかし「仮装・隠蔽」と判断された場合は**重加算税35%**に跳ね上がります。
これに加えて延滞税(年率約8.7%)が加わり、調査が数年前に遡った場合には「節税したはずが逆ざやになった」という悲惨な結果を招きます。冒頭の社長がまさにこのケースでした。数年間にわたる節税効果が丸ごと吹き飛んだ上に、追加負担まで発生したのです。
「税理士が大丈夫と言っていた」は免罪符になりません。最終的な責任は法人代表者、つまり社長にあります。
今期中にやっておくべき3つの確認
使っているスキームが今も適法かどうか、以下の観点で顧問税理士に確認してください。
- そのスキームの根拠となる法律・通達は今も有効か
- 国税庁から新しい通達や質疑応答が出ていないか
- 事業実態・労務実態が伴っており、書類で証明できるか
特に「数年前に契約したまま見直していない」法人保険やリース契約がある場合は、決算前に必ず一度確認することをお勧めします。節税スキームにも「賞味期限」があります。作った当初は合法でも、制度改正によって危険な状態になっていることがあるのです。
担当税理士が「大丈夫」と繰り返すだけで根拠を示してくれないなら、それ自体がリスクサインです。必要であれば税務専門の別の税理士にセカンドオピニオンを求めることも、経営者としての賢明な判断と言えるでしょう。スキームの見直しは、今期中に済ませておくことを強くお勧めします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。