先日、年商3億円の建設業の社長からこんな相談を受けました。
「10年ほど前に保険会社の担当者に勧められて、解約返戻率が高い法人保険に入った。来年あたりに解約して退職金の原資にしようと思っているんだけど、顧問税理士に相談したら『税務調査が来るかもしれない』と言われて青ざめています」
こういった相談、最近ぐっと増えています。2014〜2016年頃の加入ブームを考えると、今がちょうど3〜10年後の解約ラッシュのウェーブにあたるからです。
その保険、「節税」ではなく「課税の繰延」でした
「節税効果がある」という説明を受けて加入した社長は多いと思います。確かに当時は、解約返戻率の高い法人保険の保険料の一部を損金として計上できていました。
でも正確に言うと、これは節税ではなく課税の繰延です。
税金を今払わずに将来に先送りしているだけ。しかも2019年6月の国税庁通達改正で、最高解約返戻率が85%を超える法人保険は損金算入がほぼできなくなりました。2019年以前の契約には既存のルールが適用されますが、税務署の目が以前より格段に厳しくなっているのは変わりません。
解約したとき、何が一気に起きるか
問題が顕在化するのは解約のタイミングです。
解約返戻金が入ってくると、保険料の積立相当額(帳簿上の資産額)を差し引いた差額が、益金として一括算入されます。たとえば年間300万円の保険料を10年払い込み、解約返戻率85%なら手元に戻るのは2,550万円。でも費用計上できていた金額との差が利益として一度に上がってくるため、その年だけ決算が異様に膨らみます。
「退職金と相殺するから大丈夫」と考えていた社長も多いのですが、タイミングを1年でも外すと一気に税負担が重くなります。解約した年と退職金を払う年がずれるだけで、数百万円単位の課税差が生じることもあります。
税務署が今、特にチェックしているポイント
税務調査のリスクが高まっているのには理由があります。
税務署の調査官は法人の申告書を毎年継続的に追っています。積立型保険に加入した年は「保険積立金」として資産計上が申告書に現れます。ところが解約した年に益金算入の処理がなければ、「おや、積立金が消えているのに利益が動いていない」と目を引きます。
特にリスクが高いのは次のような状況です。
- 解約返戻金の益金算入を申告書に計上し忘れた
- 退職金の損金算入のタイミングを誤った
- 法人から役員への名義変更プランで出口を図った
名義変更プランは2022年の通達改正でほぼ封じられており、過去の契約でもさかのぼって否認されるケースが出てきています。適正な処理をしていれば問題ありませんが、処理ミスがあると重加算税の対象になることもあるので慎重に対応が必要です。
解約前に今すぐ確認しておくこと
「うちの保険、大丈夫かな」と思った社長は、まず現在の契約書を引っ張り出して以下の3点を確認してみてください。
1つ目は保険の「積立金の帳簿残高(資産計上額)」。2つ目は解約返戻金との差額の試算。3つ目は退職金の支払い予定時期との組み合わせで、最も税負担が少なくなる解約タイミングの逆算です。
この3ステップを顧問税理士と一緒に確認しておくだけで、税務調査リスクを大幅に下げることができます。
法人保険は「何年後に解約するか」まで含めて設計するものです。加入当時の保険担当者と連絡が取れなくなっているケースも珍しくないので、今の税理士に「出口戦略の確認をしたい」と一声かけてみてください。まだ解約まで数年ある方ほど、今が動き始める絶好のタイミングです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。