先日、年商10億円規模の建設会社の社長からこんな相談を受けました。「決算書を見ると利益は出ているのに、手元に残るお金が少ない気がして……」。

その社長の役員報酬は月40万円。「あまり高くすると所得税がかかるから」と、ご自身で金額を抑えていたそうです。でも実はこれ、かなりもったいない設計なんです。

法人に残すほど「33%の壁」に削られていく

法人の課税所得が800万円を超えると、実効税率は約33〜34%になります。

役員報酬を低く設定して法人に利益を残せば残すほど、その分が毎年33%以上の税率で削られ続けるわけです。「報酬を抑えて会社に貯めておこう」という発想は、一見堅実に見えて、税務的には大きなロスにつながります。

さらに怖いのが、法人に貯まったお金を後で個人に引き出そうとすると「配当課税」が発生すること。法人税を払った後の利益から、さらに所得税・住民税が取られる二重課税構造になってしまいます。頑張って稼いだお金が二度税務署に持っていかれる、これが多くの社長が気づいていない現実です。

報酬額を「今だけ」で考えるのが落とし穴

役員報酬の設計で見落とされがちなのが、「現役時代」と「引退時」の税率の非対称性です。

現役中に受け取る報酬には、所得税(最大45%)と住民税(10%)がかかります。年収が上がれば上がるほど、累進課税で持っていかれる割合が増えていく。

ところが退職金は、まったく違う計算式で課税されます。課税の対象になるのは「(退職金 − 退職所得控除)× 1/2」。この「×1/2」がポイントで、退職金1億円を受け取っても、課税対象は半分以下になります。しかも退職所得控除は勤続年数に応じて大きくなるため、長く経営を続けた社長ほど恩恵が大きい。

退職金の「適正額」目安はこう計算する

税務実務では、退職金の適正額の目安として「最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率」という計算式がよく使われます。

功績倍率は通常2〜3倍の範囲が税務上認められやすく、代表取締役であれば3倍前後が多いとされています。仮に月額報酬100万円、勤続20年、功績倍率3倍であれば、6,000万円が一つの目安になります。この6,000万円を退職金で受け取った場合の税負担は、現役中に同額を報酬で受け取る場合とは比べものにならないほど軽くなります。

ただし、不相当に高額な退職金は税務署に否認されるリスクがあります。設計する際は必ず顧問税理士と一緒に試算してください。

「役員社宅」で住居費を丸ごと法人経費に

もう一つ、見落としやすい節税策が役員社宅の活用です。

法人が物件を借り上げて役員に貸し出す場合、国税庁の通達に定められた計算式による「賃貸料相当額」を役員が負担するだけで、残りの家賃を全額法人の経費にできます。

月30万円の家賃のマンションを社宅にした場合、役員個人の負担は数万円程度で済むケースが多い。差額の20万円超が法人経費になり、かつ役員の実質的な手取りも増える。これを10年続ければ、累計で数千万円規模の差になります。所得税の節税と法人税の節税を同時に実現できるにもかかわらず、驚くほど活用されていないのが現状です。

3要素を組み合わせると「億単位」の差になる

整理すると、役員報酬設計の最適解は次の3要素の組み合わせです。

  • 役員報酬の適正水準設定(法人への留保を最小化しつつ、個人の手取りを最適化)
  • 退職金設計(勤続年数・功績倍率を踏まえた引退時の大型受取)
  • 役員社宅(住居費の法人経費化による実質的な手取り増加)

この3つをバランスよく組み合わせると、生涯の手取りベースで億単位の差が出るケースは珍しくありません。

特に「あと5〜10年で事業承継を考えている」という社長は、今すぐ試算に動くべきです。退職金の積み立て方針も含めて、早い段階から設計しておかないと選択肢が一気に狭まります。「うちはまだ先の話だから」と後回しにしてきた社長ほど、引退直前に「もっと早く動けばよかった」と後悔するパターンを何度も見てきました。

今期の決算前に、一度顧問税理士に「役員報酬の最適設計を試算してほしい」と声をかけてみてください。数字を見れば、どこに改善の余地があるかが一目瞭然のはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。