「先生、うちのSPCって大丈夫ですよね?」
先日、年商20億円の不動産会社のオーナー社長から、こんな電話がかかってきました。数年前に国際税務コンサルタントの提案で海外にSPC(特別目的会社)を設立し、現地口座に3億円を積み上げてきたそうです。「現地に置いておけば日本で税金がかからないと聞いた」と言うのですが、最近になって同業仲間から「それ、課税されるよ」と言われたのだとか。
結論から言うと、その心配は的中していました。
そのSPC、「ペーパー会社」と判定されていませんか?
日本の税法には、海外に設立したSPCが実体のない会社だと税務署に判断された場合、その会社の所得をそのまま日本親会社の所得に合算してしまう制度があります。これが**外国子会社合算税制(CFC課税)**です。
2024年4月以後に始まる事業年度から、この制度の適用基準が厳格化されました。現地の法人税率が27%未満の国・地域にある海外SPCは、原則として「特定外国関係会社」として扱われ、その全所得が日本の法人税の計算に取り込まれます。
「税率の低い国に会社を作って利益を寝かせておけば節税になる」という発想は、今の制度ではほぼ通用しません。知らずに運用を続けていると、思わぬ追徴税額が待っています。
3億円が丸ごと課税対象になる、その瞬間
冒頭の社長のケースで言えば、現地での実務がほとんどなく、実態上は日本の親会社が経営を握っているSPCは、税務署から「ペーパーカンパニー」と認定されます。
その瞬間、海外に留保してきた3億円が日本親会社の所得に加算されます。日本の法人税の実効税率が概ね30〜34%程度であることを考えると、単純計算で1億円前後の追加税負担が発生する計算になります。
さらに問題なのは、これが「今期分だけ」で終わらないことです。過去の事業年度にさかのぼって課税されるケースもあり、延滞税や過少申告加算税まで含めると、当初の「節税効果」がまるごと消えるどころかマイナスになってしまう事例が実際に起きています。
合算課税を回避するには、3つの壁を全部越えなければならない
CFC課税の対象から外れるには、次の3つの要件をすべて同時にクリアする必要があります。ひとつでも欠けていれば、合算課税の対象になりえます。
- 現地税率: 実際に27%以上の税率で現地課税されていること
- 管理実態: 経営判断・意思決定が現地で行われていること
- 事業実体: 現地に従業員・オフィス・固定資産が存在し、実際のビジネスが稼働していること
「現地の法律事務所が登記住所になっている」「現地口座に資金を置いてある」程度では、実体ありとは認められません。日本の本社が遠隔操作している実態があれば、どれだけ法的に整えていても管理実態の要件は崩れます。
「すでに作ってしまった」なら、早めに動くこと
すでにSPCを設立して運用している場合でも、早期に対処すれば傷は浅く済む可能性があります。現状のスキームを見直して実体を整備するか、場合によっては解散・清算して正規の方法で資金を戻すか、という選択肢があります。
ただし、どちらの選択肢にもタイミングと手順があります。税務調査が入る前に自主的に修正申告するのと、調査で指摘されてから動くのとでは、ペナルティの重さがまったく違います。
海外SPCを持っている、あるいは今まさに導入を検討しているのであれば、スキームを動かす前に国際税務の専門家に現状を診てもらうことを強くおすすめします。「問題ない」と確認してから進めるのと、知らずに放置するのとでは、リスクが雲泥の差です。
節税は、ルールの範囲内で最大化するもの。海外スキームほど、その大前提を外すと取り返しのつかないことになります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。