先日、地方の中堅製造業のオーナー社長からこんな連絡が届きました。「3年前にM&Aで買収した会社の税務調査が入ったんですが、追徴がとんでもない金額になりそうで……」。

話を聞いてみると、買収後の税務整理をほぼ手つかずのまま放置していたことが判明。最終的な追徴額は4億円を超え、そこに延滞税が加わって5億円の大台が見えてきているという状況でした。

M&Aは買収完了がゴールではありません。買った後の税務処理こそが、利益を守るうえで最も重要なフェーズだということを、多くの社長はまだ知らないままでいます。

買収後3年が、すべての分岐点

M&Aで会社を買収したとき、多くのケースで「繰越欠損金」という資産を引き継ぐことができます。被買収会社が過去に抱えていた赤字のことで、将来の黒字と相殺して法人税を減らせる制度です。

たとえば買収先に3億円の繰越欠損金があれば、理論上は3億円分の利益に対して法人税がかかりません。法人税率が30%台なら、1億円前後の節税効果がある計算です。

ところが、この繰越欠損金の引継ぎには「適格組織再編」という条件があります。合併や株式交換など、再編の形式ごとに細かい要件が定められていて、それを満たさないと欠損金の引継禁止になってしまうのです。

問題は、この適格要件が「買収時点だけ」で判断されるわけではないという点です。買収後の事業内容の変更や役員人事によって事後的に要件を外れることがあり、その場合は数億円単位の節税枠が一夜にして失効します。

「3年」という区切りが出てくるのはここです。組織再編後3年以内は要件の監視期間にあたるため、この時期の経営判断が税務上の帰結を大きく左右します。

消費税と移転価格、「隠れたリスク」が炸裂する

繰越欠損金だけが問題ではありません。M&A後の税務調査で頻繁に問題になるのが、買収先の消費税処理のミスと、グループ内取引の移転価格リスクです。

消費税については、被買収会社が以前から誤った処理を続けていたケースが少なくありません。インボイス対応の不備、課税・非課税の区分誤り、仕入税額控除の計算ミスなど、買収前から積み上がっていた問題が、オーナーチェンジ後の調査で一気に表面化します。

移転価格リスクはさらに深刻です。グループ内の取引価格が市場の公正価格とかけ離れていると認定された場合、利益の付け替えとみなされて課税対象になります。海外子会社との取引がある会社では特に注意が必要です。

これらのリスクが重なったとき、税務当局から出てくるのが「重加算税」です。隠蔽や仮装があったと判断されると、通常の過少申告加算税(10〜15%)に代えて、35%の重加算税が課されます。さらに法人税の場合、最大5年遡及して修正申告を求められるため、積み上がった追徴額が一括請求される形になります。

5億円という数字が現実に起きている背景には、この「延滞税×重加算税35%×5年遡及」の複合効果があります。

税務PMIを「後でいい」にしていないか

M&Aプロセスには、デューデリジェンス(DD)という買収前の調査フェーズがあります。財務・法務・税務の専門家が入り、リスクを洗い出す作業です。

ところが買収が完了した後、そのまま税務の整備を先送りにしてしまう会社が多い。PMI(統合プロセス)の中で税務は「後でいい」とされがちなのです。

実際には、統合初年度の段階で少なくとも以下の点を確認しておく必要があります。

  • 繰越欠損金の引継ぎ可否と、適格要件の継続監視体制の構築
  • 買収先の消費税処理の棚卸しとインボイス対応の確認
  • グループ内取引がある場合の移転価格文書の整備
  • 買収前の税務リスクの引継範囲(表明保証の内容確認)

これらを放置したまま3年が経過すると、修正できるタイミングを完全に失います。

「買った後」に強い税理士を別途確保する

M&Aのアドバイザーが買収前のDDに強くても、買収後の税務PMIまでフォローできるとは限りません。フェーズが変われば、必要な専門性も変わります。

M&Aを経験した、あるいは今後検討している社長には、「買収後の税務フォロー」を専門とする税理士を早めに確保しておくことをおすすめします。特に規模の大きいM&Aでは、税務PMI専門のチームを組成することが当たり前になりつつあります。

5億円の追徴を受けた後に「知らなかった」は通用しません。買収を検討している段階から税務PMIの専門家を巻き込んでおくことが、利益を守る最も確実な方法です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。