M&Aの交渉が佳境に入ったある日、クライアントの社長からこんな連絡が届きました。「先方の会社、3年ほど赤字続きで、繰越欠損金が3億円あるって言うんですが、これって何かに使えますか?」

結論から言います。使えます。それも、億単位の節税に。

赤字会社の「マイナス」は、実は資産になる

赤字を抱えた会社をM&Aで買収するとき、多くの社長が「赤字会社を引き取って本当に大丈夫か」と心配します。でも視点を変えると、その赤字こそが大きな価値を持つケースがあります。

繰越欠損金とは、過去に発生した損失を翌期以降の利益と相殺できる制度です。最長10年間、将来の黒字から差し引くことができます。

3億円の欠損金がある会社を適格合併で取り込んだ場合、実効税率34%で計算すると、最大で約1億円の法人税を圧縮できる計算になります。買収コストの一部が、税務上のメリットとして戻ってくるイメージです。

欠損金を「使える状態」にする3ステップ

ただ買収すれば自動的に節税できる、というわけではありません。制度をきちんと活用するには、3つのステップを踏む必要があります。

ステップ1:DDで欠損金の実態を把握する

M&Aのデューデリジェンス(DD)の段階で、欠損金の金額と残存年数を必ず確認します。繰越期限は最長10年ですが、発生年度によって残り年数はまちまちです。「帳簿上は3億あっても、来年で期限が切れる2億は実質使えない」という事態も珍しくありません。金額だけでなく、期限の内訳まで精査するのが鉄則です。

ステップ2:みなし共同事業要件を満たす合併スキームを設計する

繰越欠損金を引き継ぐには、税法上の「適格合併」の要件を満たす必要があります。中でも重要なのが「みなし共同事業要件」です。買収前から両社が共同で事業を行っていたとみなされる条件をクリアすることで、欠損金を全額引き継げるようになります。

この設計は合併スキームの構造に直結するため、M&A専門の税理士や弁護士と早い段階から連携して進めることが不可欠です。契約直前に相談しても、スキームを組み直す時間がなくなってしまいます。

ステップ3:合併後の所得と欠損金を相殺して法人税を圧縮する

合併後、利益が出た期に欠損金を充当して法人税を削っていきます。急いで使い切る必要はなく、毎期の決算戦略のなかで計画的にコントロールしていく形になります。欠損金の残高を把握しながら、設備投資のタイミングや役員報酬の設計とも組み合わせると、さらに効果が高まります。

「節税目的」と見られたら全額否認される

ここで必ず押さえておいてほしいことがあります。欠損金の引き継ぎは、使い方を誤ると国税から「租税回避」と認定され、欠損金が全額否認されるリスクがあります。

否認されやすいのは、「節税のためだけに赤字会社を買収した」と判断されるケースです。逆に言えば、買収後も実態のある事業を継続し、グループ全体での経営合理性を説明できる状態を維持することが、最大の防衛策になります。

「欠損金があるから買う」ではなく、「事業として成立する買収で、欠損金も活用できる」という順番が重要です。この考え方の違いが、税務調査でのリスクを大きく左右します。

M&Aを検討しているなら、税務DDを財務DDと同時に走らせてください

M&Aは経営の大きな転換点であると同時に、繰越欠損金のような税務メリットが眠っている場面でもあります。しかし活用できるかどうかは、事前の設計次第です。

買収の話が具体化してきたら、財務DDと並行して税務DDを依頼し、M&Aに精通した税理士に相談することを強くおすすめします。1億円規模の節税メリットを見落としたまま契約を締結するのは、あまりにももったいないです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。