先日、ある社長からこんな相談を受けました。「4億円で買収した会社があるんですが、2年後に国税局の調査が来て、4,000万円の追徴課税を受けました。これ、普通のことですか?」
話を聞いてみると、税務デューデリジェンス(DD)は実施していたと言います。ただ、対象期間が直近3年分だったと。問題は、それより前の期間に隠れていました。
株式取得では「会社ごと」買っている
M&Aには大きく「株式取得」と「事業譲渡」の2種類があります。事業譲渡なら必要な資産と負債だけを選んで引き継げますが、株式取得は会社そのものを買います。会社が抱えている過去の税務リスクも、例外なくまるごと引き継ぐことになります。
買収後に発覚した税務ミスでも、株式取得の場合は買い手側が責任を負います。「前のオーナーの時代の話でしょ」は通用しません。これはM&Aに不慣れな社長が最初にぶつかる大きな誤解です。
税務DDの最大の盲点「7年遡及」
国税の税務調査は、通常は直近5年分の申告書を対象にします。ただし、隠ぺいや仮装といった不正申告が認定された場合、7年前まで遡って調査できるという規定があります。
実務上、中小企業のM&Aで実施される税務DDは、コストや時間の制約もあって直近3年分で終わることが少なくありません。それでも「やった」という形にはなります。でも、国税はそこで止まってくれません。
買収完了後に調査が入り、5〜7年前の処理が問題視されたとき、追徴課税を受けるのは新しいオーナー、つまり買い手であるあなたです。3年分のDDでは、構造的に見えない期間が生まれてしまいます。
買収後に表面化しやすい3つのリスク
実際に問題になりやすいのは、次のような項目です。
ひとつ目は移転価格の問題です。関連会社や親会社との取引価格が適正でなかった場合、グループ間で利益が操作されていたとみなされます。国際取引が絡むと調査が複雑になり、追徴課税が億単位に達することもあります。
ふたつ目は消費税の処理ミスです。仕入税額控除の要件が満たされていない取引が長年続いていたり、課税・非課税の按分が誤っていたりするケースです。1件1件の金額は小さくても、積み重なると大きな数字になります。
みっつ目は役員報酬の過大支給です。利益調整の目的で役員に高額報酬を支払い、法人税を圧縮していた場合、適正額を超えた部分は損金算入が否認されます。同族会社やオーナー企業で特に発生しやすいパターンです。
これらが買収後に発覚した場合、本税に加えて**重加算税35%**と延滞税が上乗せされます。当初の追徴額から最終的な支払いまで、想定より大幅に膨らむのが常です。
DDの設計を見直すポイント
M&Aを進める前に、税務DDの範囲と質を改めて確認しましょう。最低でも直近5年分、できれば7年分の申告書と調査履歴を対象にするのが安全です。費用はかかりますが、追徴課税リスクと比べれば十分に見合います。
あわせて確認しておきたいのは、過去の税務調査の有無とその結果、関連会社との取引条件、消費税の課税区分の根拠、役員報酬の決定プロセスと議事録の整備状況といった点です。書類を読むだけでなく、担当役員や顧問税理士へのヒアリングまで含めて進めることが重要です。
5億円規模の買収で2年後に数千万円の追徴課税というケースは、残念ながら珍しくありません。価格交渉と同じくらい、税務DDの質にこだわってください。
M&Aを検討しているなら、まず依頼する税理士に「7年分を見てもらえますか?」と聞くことからはじめましょう。その一言が、億単位のリスクを防ぐことになるかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。