先日、年商10億を超える製造業の社長から、こんな一言が飛んできました。「毎年ちゃんと税理士に言われた通りにやってるのに、なんでこんなに手元に残らないんですか?」と。
その社長の役員報酬は月200万円。年収にすると2400万円。決して低い設定ではありませんが、実際に手元に残る金額を計算してみると、思っていた以上に少なかったんです。
その原因は、報酬の「設計」にありました。
高い役員報酬が「裏目」に出る理由
会社の利益を役員報酬に回すのは、定番の節税策です。法人税率は最大約35%ですが、個人の所得税・住民税も高くなるため、どこかでバランスを取る必要があります。
でも、多くの社長が見落としているのが「社会保険料」の存在です。
月200万円の役員報酬を設定すると、健康保険料と厚生年金保険料を合わせた社会保険料が、会社負担と個人負担を合わせて年間300万円を超えることがあります。
これは法人税でも所得税でもなく、そのまま消えていくコストです。いくら法人税を節約しても、社会保険料でごっそり持っていかれるなら、本末転倒になってしまいます。所得税・住民税と社会保険料の合算で考えると、年収2400万円の社長が実際に自由に使えるお金が半分以下になっていることも珍しくありません。
鍵は「現金以外の報酬」に振り替えること
では、どうすれば改善できるのか。解決策は、役員報酬の一部を「非課税給付」に振り替えることです。
具体的には、役員社宅(会社が物件を借り上げて社長に貸与する形式)や出張日当(旅費規程の整備があれば非課税で支給できる)、といった仕組みを活用します。
これらの非課税給付は、社会保険料の計算基礎となる「標準報酬月額」に含まれません。つまり、現金報酬の一部をこれらに振り替えることで、社会保険料の計算ベースを引き下げられるんです。法人の経費にもなりながら、個人の保険料負担も下がる。一石二鳥の構造です。
数字で見ると、その差は歴然
たとえば月200万円の役員報酬のうち、30万円分を役員社宅と出張日当に振り替えたとします。
現金報酬は月170万円に下がりますが、社長が実際に使える経済的価値はほとんど変わりません。一方で、標準報酬月額が下がることで、社会保険料の年間負担額が大幅に圧縮されます。
削減率が40%を超えるケースも実際にあり、年間100〜200万円規模の保険料削減につながることもあります。さらに現金報酬ベースが下がれば、所得税・住民税も連動して減ります。この二つの効果が重なると、設計の違いによる年間の差は数百万円から、場合によっては1000万円を超えることもあります。長期で見れば、数千万円規模の差になるというのもあながち大げさではありません。
やり方を間違えると否認される
ただし、必ず押さえておきたい注意点があります。
役員社宅は、会社から社長への「貸与」という形を取りますが、賃料の計算を誤ると税務否認のリスクがあります。税務上の「賃貸料相当額」には明確な計算ルールがあり、これを下回る賃料しか取らないと、差額が給与所得として認定されてしまいます。
旅費日当も同様で、出張の実態が伴っていない、旅費規程が整備されていない、支給額が常識を逸脱しているといった場合は「実態のない経費」として否認されることがあります。設計を誤ると節税どころか追徴課税のリスクを抱えることになります。この点だけは軽視しないようにしてください。
動けるタイミングは決まっている
役員報酬は、原則として事業年度開始から3ヶ月以内しか変更できません。決算期直前に「やっぱり変えたい」と思っても、ほとんどのケースで手遅れです。
次の改定タイミングがくる前に、現在の設計が「トータルコスト最小化」になっているかどうかを一度確認してみてください。現金報酬だけで組まれた役員報酬は、見直しの余地が大きいことが多いです。
まずは旅費規程の整備と社宅の活用可否の検討から始めてみると、案外すぐに動き出せることも多いですよ。今期の改定タイミングを逃さないうちに、一度専門家に相談してみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。