先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「今期は利益が出たので、交際費を前年の倍くらい使ったんです。そしたら顧問税理士に『それ、税務調査フラグになりますよ』と言われて急に不安になって…」

その社長は何か悪いことをしているわけではありません。ただ、知らないまま「税務署が調査先を選ぶときに目をつけやすい行動」をしてしまっていたのです。

税務署は無作為に調査先を選んでいるわけではありません。過去の申告データや業界平均との比較から、「この会社、少し深掘りしてみよう」と判断する内部的な選定基準があります。その基準に引っかかる行動を知っておくだけで、リスクを下げることができます。

3位:交際費が前年比30%超で急増した

税務署が敏感に反応するのは「前年と比べて何かが急に変化した」という点です。交際費が前年比30%を超えて増えた年は、調査対象として浮上しやすくなります。

特に注意が必要なのが、1人あたり1万円を超える飲食費です。これには税法上、記録しなければならない5項目があります。飲食した年月日、参加者全員の氏名と会社との関係、人数、金額、そして店名と所在地。この5項目です。

「だいたい接待だったから大丈夫だろう」という認識が一番危険です。1項目でも欠けていると、その飲食費は全額否認されるリスクがあります。領収書と一緒に、その場でメモしておく習慣をつけることが最も確実な対策です。

交際費そのものが増えることより、「記録が不完全なまま増えること」の方がリスクは高い、と覚えておいてください。

2位:役員・親族への報酬が業績と不釣り合いに急増した

業績と釣り合わない役員報酬の引き上げは、税務署に「利益の付け替えでは?」という疑念を持たれます。会社の売上や利益の推移と照らし合わせたとき、説明がつかない報酬増加は調査のきっかけになります。

特に厳しくチェックされるのが、配偶者や子どもへの役員報酬です。「妻も会社の仕事を手伝っているから報酬を払っている」というケースは珍しくありませんが、税務調査では「実態の有無」が徹底的に問われます。

実態がないと判断されると、その報酬は全額否認されて追徴課税の対象になります。防衛策はシンプルで、「実態の記録を継続的に残すこと」です。取締役会の議事録、業務日誌、社内メールや打ち合わせの記録など、実際に経営や業務に関与していることを示す証拠を積み上げておきましょう。

家族を役員にすること自体は問題ありませんが、「形だけの役員」にしてしまうと、いざ調査が入ったときに守れません。

1位:退職直前に役員報酬を急に引き上げた

これが最もリスクが高い行動です。冒頭でお伝えした通り、調査選定確率が2.8倍になるというデータがあるほど、税務署が強く注目するポイントです。

退職金の計算式は「最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率」で決まります。社長の功績倍率の上限目安は3.0倍とされています。この計算式を見て、何かに気づいた方もいるかもしれません。

退職の直前だけ役員報酬を大幅に引き上げ、その「最終月額報酬」を高くすることで、退職金の総額を増やそうという設計です。ただ、この手法は税務署にはほぼ確実に見抜かれます。

怖いのは、引き上げた部分だけでなく、功績倍率ごと否認されることがある点です。退職金全体が「不相当に高い」として否認対象になれば、数百万円、場合によっては数千万円規模の追徴課税になります。退職後にこれが来ると、会社にとっても社長個人にとっても相当なダメージです。

退職金の設計は「2〜3年前」から始めるのが原則

退職金は、社長が引退を考え始めてから設計するのでは遅いことがほとんどです。役員報酬を数年かけて段階的に引き上げ、その実績を積み上げてから退職するのが、税務上も認められやすい設計の考え方です。

早く相談すればするほど、選択肢が増えます。「引退はまだ先の話」と思っていても、50代に入ったら一度顧問税理士と退職金の設計を話し合っておくことをおすすめします。

税務調査は「事前に備えた会社」と「何も準備していない会社」とでは、結果が大きく変わります。今回お伝えした3つの行動が自社に当てはまるなら、今期中に一度、顧問税理士に現状を確認してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。