先日、年商8億の不動産会社のオーナー社長から「来月、税務調査が入る」という連絡がありました。

「慌てて準備を始めたんだけど、何から手をつければいいか分からなくて…」とのこと。こういう相談を受けるたびに思うのは、「調査が来てから動いても遅い」という現実です。

税務調査官には、帳簿を開いた瞬間から「真っ先に確認する3カ所」があります。ここに問題がなければ調査は比較的スムーズに終わります。逆に、ここで引っかかると調査が長引き、追徴課税につながるリスクが一気に高まります。

役員報酬・退職金:算定根拠が命

調査官が最初に目を向けるのは、役員報酬と退職金です。金額が大きく、かつ恣意的に設定しやすい領域のため、調査官の関心が集まりやすいのです。

特に退職金は、功績倍率が3倍を大きく超えてくると損金否認のリスクが跳ね上がります。たとえば最終月額報酬100万円・在任20年・功績倍率3倍なら退職金は6,000万円。業界水準として妥当であれば問題ありませんが、倍率が5倍・6倍になると「算定根拠を見せてください」と必ず求められます。

そのとき、取締役会議事録に根拠が残っていなければ、説明のしようがありません。退職金を支給する前に、「なぜこの金額か」という計算根拠と意思決定の経緯を議事録に落としておくこと。これが、後から証拠書類として機能します。

外注費とグループ間取引:実態のない委託費は35%の重加算税

次に調査官が目を向けるのは、外注費とグループ会社間の取引です。

ここは「重加算税」に直結するため、調査官も力を入れてチェックしてきます。重加算税は通常の追徴税額に35%が上乗せされる重いペナルティで、実態のない委託費が発覚するとほぼ確実に対象になります。

年商が億を超えると、グループ会社やフリーランスへの業務委託が増えてきます。そのとき調査官が確認するのは「実際にどんな仕事をしたか証明できるか」という点です。必要な書類は主に3点——契約書、業務実績の記録、発注書。この3点が揃っていれば実態ありと判断されます。

「契約書はあるけど実績記録がない」という状態が一番危険です。特にグループ間取引が多い会社は、ここの整備を後回しにしがちなので要注意です。

オーナー個人との経費区分:曖昧さが最大の標的

3カ所目は、社長個人との経費の区分けです。これは特に、オーナー系の中小企業で狙われやすいポイントです。

交際費と個人の飲食費、社用車と私用、接待ゴルフと趣味のゴルフ。こうした経費は「会社の経費か個人の支出か」の境界が曖昧になりがちです。調査官はこの曖昧さを見逃しません。「誰と、どんな目的で、どんな成果があったか」が記録されていない交際費は、個人消費と認定されるリスクがあります。

特に高額な接待費や、海外出張に私的な観光日程が混じっているケースは注意が必要です。経費精算のルールを明文化し、顧問税理士と「この支出の処理、問題ありませんか?」と定期的に確認する習慣が、長期的に見て最も確実な防衛策になります。

3カ所に共通すること:記録があるかどうか

調査官は基本的に、事実を証明する書類があるかどうかで判断します。どれだけ実態があっても、紙の記録がなければ証明できません。

議事録の整備、契約書の完備、顧問税理士との事前確認。この3つを日常業務の中に組み込んでおくだけで、税務調査への備えは大きく変わります。

年商が大きくなるほど、調査が入る確率は高まります。売上5,000万円と5億円では、調査頻度が実感として違ってきます。「備えあれば憂いなし」は税務の世界でも変わりません。

決算前に一度、この3カ所を顧問税理士と一緒に点検しておくことをおすすめします。後になって慌てるよりも、今期中に整備しておく方が精神的にも経営的にも、はるかに楽です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。