先日、ある製造業の社長からこんな連絡がきました。

「M&Aで会社を買収したのに、税務調査で3000万以上の追徴を指摘されそうです……」

クローズまで半年以上かけたM&Aが、税務リスクの入口になっていたとは——。誰も思いたくない展開ですが、これは決して他人事ではありません。M&A後の税務調査は増加傾向にあり、知らないと追徴課税に直結する盲点が3つあります。

盲点① 取得価額の「根拠」が残っていない

M&Aで株式を取得するとき、その価格はどう決めましたか?

交渉でまとまった金額をそのまま使っているケースが多いですが、第三者評価機関によるバリュエーションレポートなしに価格設定をした場合、税務署から「時価との乖離がある」として寄附金認定されるリスクがあります。寄附金認定されると、損金算入が制限されて追徴につながります。

さらに、グループ内M&Aでは移転価格税制のリスクも重なります。「身内同士だから大丈夫」という感覚が、後から思わぬ追徴につながります。

対策はシンプルで、独立した第三者の評価書を取得して文書として残しておくことです。この一枚が、税務署との交渉でまったく違う結果をもたらします。

盲点② 繰越欠損金は「引き継げない」場合がある

買収した会社に繰越欠損金がある場合、それを節税に活用しようと考える方は多いです。でも、これには大きな落とし穴があります。

買収先の欠損金を引き継いで使うには、税法上の「みなし共同事業要件」を満たさなければなりません。簡単に言えば、「実態として一緒に事業をしている」と認められて初めて、欠損金の引継ぎが許される仕組みです。

この要件をディールのクローズ後に確認しても、もう手遅れです。スキームを組み直すか、節税効果がゼロになるかのどちらかです。「欠損金を使えるから買収する」という前提が根本から崩れることもあります。M&Aを計画する段階で、税理士と要件を確認しておくことが必須です。

盲点③ スキーム選択のミスが数千万円になる

現金で株式を買う方法(現金買収)と、自社の株式と交換する方法(株式交換)では、税務上の「適格・非適格」の判定が変わります。

適格か非適格かによって、課税タイミングが数年単位でずれるだけでなく、買収直後に多額の課税が発生するケースもあります。「シンプルに現金買収でいこう」という判断が、3000万円超の追徴課税に直結した事例は珍しくありません。

スキームの選択は、会計・法務・税務が複雑に絡み合う場面です。M&Aアドバイザーだけでなく、税務の専門家をチームに加えることを強くおすすめします。ここを省コストにしようとすると、後から何倍にもなって返ってきます。


M&Aは会社の未来を大きく左右する決断です。だからこそ、税務リスクの整理を「ディールが終わってから」に回すのは危険です。

まだ買収後の税務整理が十分でないと感じている方は、一度専門の税理士に現状を見てもらうことをおすすめします。後から追徴を食らうよりも、今のうちに手を打つほうが、コストも精神的な負担もはるかに小さいはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。