先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「うちの法人保険、担当者に『そのままでいいですよ』と言われ続けているんですが、本当に大丈夫ですか?」

話を聞くと、年間保険料が3000万円近い高額返戻型の保険を10年以上続けているとのこと。しかも設計は2019年以前のまま。正直、かなりまずい状況でした。

2019年、保険の常識が変わった

それまで法人保険は「保険料を全額損金に算入できる」節税手段として広く使われていました。保険料を払って経費を膨らませ、法人税を抑える。解約返戻金は退職金の原資にする。理論上は非常に合理的な設計でした。

ところが2019年に国税庁がルールを大きく見直し、高額返戻型の保険に対して損金算入割合に上限が設けられました。返戻率が高いほど損金に算入できる割合が下がる仕組みです。

かつて全額損金になっていた保険料が、現行ルールでは40〜60%程度しか算入できないケースが続出しています。節税効果が半分以下に下がるということです。

年間3000万円だと、10年で4500万円の損失になる

数字で見てみましょう。年間保険料3000万円、税率30%と仮定します。旧ルールなら全額損金で、年間900万円の節税効果がありました。

ところが損金算入割合が50%に制限されると、損金は1500万円。節税効果は450万円に半減します。差額450万円の節税機会を毎年失い続け、10年で累計4500万円の機会損失です。

この話をした社長は「誰も教えてくれなかった」と言っていました。保険の担当者が「そのままで大丈夫」と言い続ける背景に、何があるのかは想像にお任せします。

放置するともう一つのリスクがある

節税効果の低下だけではありません。旧設計のまま続けると、出口でも問題が起きます。

解約返戻金のピーク時期と役員の退職時期がずれていると、積み上げた返戻金を最大限に活用できません。ピークを過ぎてから解約すれば、積み立てた額より受け取りが少なくなることもあります。

さらに、返戻金を受け取る年は法人の利益が一気に膨らみます。退職金の支払いや役員報酬の調整と組み合わせていなければ、想定外の税負担が発生することもあります。保険の設計と出口戦略はセットで考える必要があります。

「再設計」という選択肢

解決策は、現行ルールに対応した形への再設計です。すぐに解約するのではなく、今の規制下で合理的な設計に組み替えることがポイントです。

見直すべき観点はおもに4つです。

  • 解約返戻金のピーク時期と退職予定年齢が合っているか
  • 退職金規程との連動ができているか
  • 現行ルールで損金算入割合が最適な設計になっているか
  • 役員報酬とのバランスが取れているか

ただし、この再設計を保険会社の担当者だけに任せるのは禁物です。保険のプロは保険設計の専門家ですが、税務の専門家ではありません。法人税・退職金・役員報酬を横断して考えられる税理士と一緒に検討することが不可欠です。

今すぐ確認してほしいこと

手元にある法人保険の設計書を取り出してみてください。契約日が2019年7月以前であれば、現行ルールに対応していない可能性があります。年間保険料が数百万円を超えるなら、一度税理士に見せるだけでも価値があります。

「担当者に任せているから安心」は、この領域では通用しないことが多いです。保険は保険のプロ、税務は税務のプロ。それぞれの専門家をきちんと使い分けることが、社長として求められる判断です。

規制改正からすでに数年が経ちます。まだ一度も見直していないなら、今期中に確認しておくことを強くおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。