先日、ある経営者仲間の集まりで、こんな話が出ました。「うちの顧問税理士が、シンガポールに会社を作れば税金が半分になると言っているんだけど、本当のところどうなの?」と聞いてきた社長がいたんです。
その場にいた誰もが「気になる」という顔をしていました。年商が10億を超えてくると、話の重みがまるで違います。
5億の利益が出たとき、実際に何円取られているか
年商10億超の中堅企業が5億円の利益を出したとします。法人税・地方税・事業税を合わせた実効税率はおおむね34%前後。この場合、税金として国に納まるのは約1億7,000万円です。
手元に残るのは3億3,000万円。悪くないように思えますが、「あの1.7億を何とか減らせないか」と考えるのは、経営者として当然の感覚ではないでしょうか。そしてこの問いに、一定の答えを出した社長が実際にいます。
グループ全体で実効税率を20%台にした仕組み
その方法の核心は、シンガポールへの持株会社・知財管理会社の設立です。
日本の事業会社が持つブランドや特許などの知的財産をシンガポール法人に移管し、日本法人がその使用料(ロイヤリティ)を毎年支払う形にします。また、グループ全体の経営管理や財務機能をシンガポール法人が担い、各グループ会社から管理料を受け取る設計を組み合わせることで、利益の出どころをコントロールします。
シンガポールの法人税率は17%。日本の約半分です。グループ全体で見たとき、税負担が大幅に変わってくる理屈は、ここにあります。ただ、この説明だけで「じゃあすぐやろう」となるのは少し危険です。
「設立するだけ」では完全にアウト
日本には外国子会社合算税制(CFC税制、タックスヘイブン対策税制とも呼ばれます)というルールがあります。
このルールの目的は、「税率の低い国にペーパーカンパニーを作って税逃れをすること」を防ぐことです。シンガポールに法人を登記しただけで、実態の操作はすべて日本から行っているという構造は、真っ先に否認されます。
税務当局が重視するのは、その海外法人に本物の事業実体があるかどうかです。現地に常駐スタッフがいるか、意思決定がシンガポールで行われているか、機能するオフィス・設備が存在するか——これらが整っていなければ、シンガポール法人の利益は「日本の親会社の利益」として課税されます。「シンガポールに会社を作ったが、税務調査で全額否認された」という話は、国際税務の現場では珍しくありません。
移転価格の問題も見落とせない
もう一つ、重要なポイントがあります。ロイヤリティや管理料の「金額設定」です。
グループ間の取引価格が市場の相場から大きく外れていると、移転価格税制の問題が生じます。たとえば、ロイヤリティを高く設定して日本法人の利益を意図的に減らす構造は、税務当局から「不当な利益移転」と見なされるリスクがあります。
金額の算定根拠を文書化し、独立した第三者間であれば成立しうる価格かどうかを説明できる状態にしておくことが、このスキームの前提条件です。設計だけでなく、運用後の維持管理も含めてプロの関与が必要な理由がここにあります。
誰に向いていて、誰には合わないか
このスキームを現実的に検討できるのは、利益が安定して5億円前後ある企業で、かつ「現地でビジネスを展開する意思がある」か「知財をしっかり管理したい事業モデルを持っている」場合に限られます。
専門家費用、現地法人の設立・運営コスト、現地スタッフの人件費などを考えると、利益が数億円規模では費用対効果が合わないことがほとんどです。一方、年商10億を超えて利益が安定しているなら、初期投資は十分に回収できる可能性があります。
まずは「自社の実効税率」を確認するところから
「海外法人」という言葉には怪しいイメージがあるかもしれませんが、国際税務の専門家が適切に設計すれば、これは合法的な手段です。日本の大企業が当然のように行っている税務戦略の、中堅・中小向けバージョンだと捉えてください。
まず顧問税理士に「自社の実効税率はいくらか」を確認してみてください。そのうえで、国際税務に強い専門家にセカンドオピニオンを求めるのが、最初の一歩として現実的だと思います。設計の可否は利益規模・事業内容・オーナーの意向によってまったく変わりますが、情報を持った状態で判断するのと、何も知らない状態では大きく違います。
知らないまま1億7,000万円を毎年払い続けるより、一度専門家に話を聞いてみる価値は十分にあるはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。