先日、取引先の社長から少し沈んだ声で連絡が入りました。「先月から税務調査が入っているんですが、業務委託費の説明を求められていて……正直、書類がちゃんと揃っていなくて」と言うのです。

年商11億円の製造業。帳簿も申告も、本人はきちんとやっているつもりでした。ところが調査官が目を付けたのは「実態」でした。書類の有無ではなく、その取引が本当に会社のためのものだったかどうか——そこを問われていたのです。

3年分を遡及される、その重さ

税務調査は通常、3年分の帳簿を対象にします。不正が疑われれば7年まで遡ることもありますが、通常調査でも3年分というのはかなりのボリュームです。

毎年1,700万円ほど疑わしい支出があれば、3年累計で5,000万円を超えます。年商10億超の会社では、この規模はまったく珍しくありません。

そして問題は、5,000万円が否認されたときの「実際の請求額」です。法人税の実効税率はおよそ34%。5,000万円 × 34% で、追徴税は約1,700万円になります。さらに、隠蔽や仮装があったと認定されると重加算税35%が上乗せされ、合計2,000万円を超える請求が来ることも現実にあります。

「そんな大金、すぐに用意できない」——そう言って顔色が変わる社長を、私は何度も見てきました。

税務署が特に目を付ける、3つの経費

調査官がまず見るのは、金額が大きく、業務との関係が曖昧になりやすい支出です。経験上、特に狙われやすいのが次の3つです。

業務委託費は、外注先への支払いが多い会社で問題になりがちです。「誰に」「何の業務を」「どんな成果物で」という記録がなければ、実態のない支払いと判断されます。役員の知人や家族への委託は、調査官のアンテナが特に敏感に反応します。

役員の旅行費は、出張・視察目的であっても「私的利用」と認定されるケースがあります。業務目的が出張報告書や議事録に明記されていないと、旅費の全額が否認対象になることもあります。「社長が行ったんだからビジネスに決まっている」という理屈は、残念ながら税務調査では通りません。

交際費は、誰と・何の目的で使ったかの記録が必須です。飲食費であれば参加者全員の氏名と業務との関係性を記録しておく義務があります。「接待で使った」という曖昧な領収書が積み上がっていると、まとめて否認されるリスクがあります。

書類が「ある」だけでは足りない理由

ここが多くの社長が見落としているポイントです。契約書や領収書がきちんと揃っていても、調査官は「その取引は会社の事業に本当に貢献していたか」という目で見てきます。

経済的な実態——つまり、支出が実際に会社のために使われたかどうか——が問われるのです。書類は必要条件であって、十分条件ではない。この差が、調査を乗り越えられるかどうかの分かれ目になります。

今すぐできる3つの対策

まず、契約書と議事録を整えることです。業務委託であれば業務内容・報酬・納品物を明確にした契約書が基本です。役員報酬や役員賞与に関わる決定は、株主総会・取締役会の議事録に必ず残しておきましょう。

次に、支出の業務関連性を記録する習慣をつけること。旅費なら出張報告書、交際費なら「誰と・何の目的で・どんな話をしたか」を簡単にメモしておくだけで、調査時の説明力がまったく変わります。難しいことではなく、習慣化できるかどうかが全てです。

そして、役員と法人間の取引を適正化すること。役員への貸付金、役員所有の不動産を法人が借りている場合の賃料設定、これらが市場相場から大きく外れていると認定課税の対象になります。顧問税理士と一度、棚卸しをしておくことをおすすめします。


税務調査は「入ってから対策する」では手遅れです。特に年商が大きくなるほど、調査が入ったときの影響も比例して大きくなります。業務委託費・旅費・交際費の記録体制を、今期中に顧問税理士と一度確認しておくことが、最も確実で安上がりなリスクヘッジです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。