先日、年商12億円の建設会社を経営するS社長から、こんな電話がかかってきました。
「税務調査の通知が来たんですけど……どれくらいヤバいですか?」
電話口の声は、明らかに動揺していました。決算を終えてひと安心していた矢先の出来事だったそうです。調査の通知が来てから慌てて連絡してくる社長は少なくないのですが、そのタイミングでできることは、正直かなり限られます。
規模が大きいほど、調査の標的になりやすい
年商10億円を超えた法人というのは、税務署から見て「定期的に確認すべき先」に分類されやすくなります。規模が大きければ大きいほど、申告に誤りがあったときの課税漏れ額も大きくなる——国税庁にとっては、非常にシンプルな理屈です。
中小企業が調査を受けるのが「10年に1度あるかどうか」とすると、年商10億超の中堅企業はその頻度が格段に上がります。「うちはちゃんとやってるから問題ない」という感覚が、実は一番危険な思い込みかもしれません。
5年遡及で「追徴1億」は珍しくない
税務調査が入ると、原則として過去5年分の申告内容が対象になります。不正・仮装・隠蔽があったと認定されれば、7年にまで延長されます。
たとえば1年あたり2,000万円の申告漏れが見つかったとして、5年遡及すれば元本だけで1億円。これに過少申告加算税(10〜15%)が加わり、悪質と判断されれば重加算税35%が上乗せされます。利子税まで含めると、最終的な支払い額が1億5,000万円を超えるケースも十分ありえます。
「追徴1億」と聞くと大げさに感じるかもしれませんが、年商10億超の法人では決してレアな話ではないのです。
調査官が最初に目を向ける3つのポイント
経験上、調査官が入ってすぐ確認しにくるのは次の3点です。
① 役員報酬・退職金の根拠書類
役員報酬は「定期同額給与」が原則で、期中に変更する場合は正当な理由と株主総会の決議が必要です。「議事録が残っていない」「変更のタイミングが不自然」というだけで、指摘のきっかけになります。退職金についても、計算根拠が不明確な場合は「過大退職金」として否認されるリスクがあります。
② 取引先との不自然な経費処理
外注費、コンサルティング費用、接待交際費など、実態が曖昧な取引は要注意です。単価が相場から大きくかけ離れていたり、発注先が代表者の知人だったりすると、調査官は自然と深掘りしてきます。取引の実態を示す証拠——契約書、成果物、やり取りの記録——が揃っているかどうかが、明暗を分けます。
③ 関連会社への利益移転
グループ経営をしている場合、親会社から子会社への業務委託や資金の融通が「不当な利益移転」とみなされることがあります。いわゆる移転価格の問題です。会社間の取引条件が第三者との取引と同水準かどうか、説明できる資料があるかどうかを事前に確認しておきましょう。
調査で指摘されても、即「重加算税」にはならない
少し安心できる話もあります。税務調査で何か指摘を受けたからといって、自動的に重加算税が課されるわけではありません。
重加算税(35%)が適用されるのは、意図的な隠蔽や仮装行為があったと認定された場合に限られます。書類の紛失や計算ミスといった「単純な誤り」であれば、過少申告加算税(10%前後)で済むことがほとんどです。
つまり「悪意はなかったが、書類が整っていなかった」という状態が、一番もったいない結果を招きます。普段からの記録整備が、いざというときの最大の防衛策になります。
今すぐ確認しておくべきこと
役員報酬の変更記録は残っていますか?退職金規程は整備されていますか?外注先との契約書や業務実態を示す書類はあるでしょうか。
年商10億円の壁を超えたタイミングで、一度「税務調査対策の棚卸し」を顧問税理士とやっておくことを強くおすすめします。S社長のように通知が来てから慌てるのではなく、何もない今こそが動き時です。備えがあれば、調査官が来ても堂々と対応できます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。