先日、年商12億の卸売業を経営する社長から、こんな話を聞きました。「税務署から調査が入ると聞かされたとき、まず頭に浮かんだのが『どこかで問題が出るかもしれない』という不安だった」と。
その社長は幸い大きな問題なく調査を終えましたが、中には調査の結果として1億円を超える追徴税額を告げられるケースがあります。追徴とは単に税金を払い直すだけではなく、加算税や延滞税が乗ってくることで、当初の税額よりずっと大きな金額になることがあるんです。
税務署は「3年分のデータ」で狙い目を絞っている
税務調査は突然やってくるように感じますが、実は税務署は調査に来る前から準備をしています。過去3年間の申告書を比較・分析して、売上に対して経費が急増していないか、同業他社と比べて利益率が異常に低くないか、こうした異常値を機械的に抽出しています。
特に年商10億円を超えてくる法人は、調査の優先度が高くなります。規模が大きくなるほど申告内容が複雑になりやすく、税務署からすると「確認すべきポイントが多い」と判断されるわけです。「うちは真面目にやってるから大丈夫」と思っていても、データの特徴だけで対象になることは十分にあります。
否認リスクが集中する「3大項目」
税務調査で問題になりやすいのは、大きく3つの項目です。まず役員報酬。役員報酬は定期同額給与でないと損金に算入できないなど、要件が細かく決まっています。変更タイミングや金額設定に不備があると、まるごと否認されることもあります。
次が交際費。誰と・どんな目的で使ったかが明確でないと、事業との関連性を疑われます。「なんとなく接待費で処理していた」という経費は、調査官が真っ先に着目するポイントです。
そして海外取引。移転価格税制や外国子会社への資金移動は、近年の調査で特に重点項目になっています。海外との取引がある会社は、契約書や取引価格の根拠を整えておくことが不可欠です。
重加算税が乗ると、本税1億円が1.35億円になる
通常の申告漏れなら過少申告加算税(10〜15%)で済むことが多いのですが、「意図的な隠蔽」と判断されると重加算税35%が課せられます。
本税が1億円だとすると、重加算税だけで3,500万円。合計1.35億円に加えて延滞税も加わります。問題の認識なく処理していた場合でも、調査官が「故意性あり」と判断すれば重加算税になることがあるため、「知らなかった」では済まないのがこの世界の怖いところです。
そして一番まずいのは、調査が来てから慌てて対策しようとすること。自主的に申告漏れを修正する場合と、調査で指摘された後の修正では、加算税の種類が変わります。問題に気づいたら調査前に動くのが鉄則です。
調査が来る前にやるべき3つの備え
① 過去3年分の申告書を自主点検する
自社の申告書を改めて読み返してみてください。売上・原価・経費のバランスに大きな変化がある年度はないか、特定の費目が突出して多い年度はないか。第三者の目で見たとき「なぜこの金額?」と思われそうな箇所があれば、根拠資料が揃っているかを確認します。
② 議事録・契約書を整備する
役員報酬の変更、関連会社との取引、大口の資産購入——これらには必ず議事録や契約書が必要です。「口頭で決めた」「昔からそうしてきた」では調査では通りません。古い取引ほど書類が散逸しやすいので、今のうちに整理しておくことをおすすめします。
③ 専門家による税務リスク診断を受ける
自社内の点検には限界があります。顧問税理士がいても、普段の記帳・申告に特化している場合、税務調査対策の視点が弱いことも少なくありません。調査対応の実績がある税理士に「調査が来たら何が問題になりうるか」を一度診断してもらうのは、非常に有効な投資です。
税務調査は、来てから慌てても手遅れなことが多いです。今の時期に一度、自社の申告書を税理士と一緒に見直す機会を作ってみてください。1時間の相談が、1億円のリスクを回避するきっかけになることがあります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。