先日、こんな相談を受けました。
年商4億円の製造業を経営する田中社長(仮名)が、顧問税理士に保険の話を持ち出したところ、「2019年の改正で節税効果はなくなりましたから」とあっさり言われてしまったそうです。それ以来、保険での対策は頭の片隅に追いやっていたと。
でも、本当にそうでしょうか。
結論から言うと、2019年の改正後でも、設計次第で法人保険はまだ有効な節税ツールになり得ます。田中社長のケースでは、最終的に1200万円を超える実質的な節税効果が出ました。
2019年改正で何が変わったのか
2019年以前は、保険料の全額を損金に算入できる商品が存在していました。いわゆる「全額損金タイプ」の逓増定期保険などが代表格です。これが金融庁と国税庁の連携により封じられ、損金算入割合に一定のルールが設けられました。
この改正を受けて、「保険での節税は終わった」という空気が業界に広がったのは事実です。顧問税理士がそう言うのも、あながち間違いではありません。
ただし、「全額損金が使えなくなった=保険での節税効果がゼロになった」は、少し雑な結論です。
田中社長が使ったスキームの中身
田中社長が活用したのは、ピーク時の返戻率が85%、損金算入割合が50%という商品です。
保険料は年間600万円、5年間で合計3000万円を支払う設計にしました。このとき損金に落とせるのは毎年300万円、5年間で1500万円です。法人税率を約30%とすると、この損金化だけで約450万円の節税になります。
ただし、それだけでは話は終わりません。ポイントは「出口」にあります。
保険の本当の効果は「出口」で決まる
5年後、田中社長は解約返戻金を受け取るタイミングで、役員退職金を同時に支給しました。解約返戻金は益金として計上されますが、そこに退職金という大きな損金をぶつけることで、課税される利益を大幅に圧縮したのです。
退職金は「最終報酬月額×勤続年数×功績倍率」で計算される役員退職金として、合法的に多額の損金を作れます。この設計を保険の出口と合わせることで、トータルの実質節税額は1200万円を超えました。
保険単体で考えるのではなく、退職金との「掛け算」で考える。これが改正後の法人保険活用の核心です。
3つのチェックポイント
改正後の法人保険を検討するとき、必ず確認してほしいポイントが3つあります。
ひとつ目は、損金割合と実効税率のバランスです。損金50%でも、法人税率が高い黒字企業なら十分な効果が出ます。逆に、赤字気味の会社では損金を作っても意味が薄くなります。
ふたつ目は、出口戦略が具体的に設計されているかです。解約返戻金が戻ってくるタイミングに、退職金や設備投資など「損金を作れるイベント」を合わせられるかどうかが肝になります。
みっつ目は、キャッシュフローへの影響です。どれだけ節税効果があっても、保険料の支払いで資金繰りが苦しくなっては本末転倒です。月々の保険料を払い続けられる手元資金があることは大前提です。
「うちには関係ない」と思う前に
田中社長が最初に相談した顧問税理士は、決して嘘をついていたわけではありません。改正の概要を伝えただけです。ただ、改正後の商品設計や出口戦略まで踏み込んで提案できる税理士は、残念ながら多くはないのが現状です。
保険会社の営業担当者も、自社商品を売ることが仕事ですから、客観的な比較や出口設計まで一緒に考えてくれるとは限りません。
改正後の法人保険は、商品選びと出口設計の両方を、税務の視点で精査できる専門家と一緒に進めることが必須条件です。保険単体の利回りや返戻率だけで判断するのは危険です。
今期の利益が膨らんできた社長、役員退職金を数年後に想定している社長は、「改正後だから無理」と決めつける前に、一度専門家に設計を見てもらうことをおすすめします。正しく設計すれば、まだ十分に使えるツールです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。