先日、顧問先の社長からこんな連絡が来ました。「倒産防止共済、毎月ちゃんと積んでるんですけど、これって本当に節税になってますよね?」
もちろん、損金算入という意味では節税になっています。でもその社長に「解約したらどうなるかご存知ですか?」と聞いたところ、しばらく沈黙が続きました。
実はこれ、珍しいケースではありません。倒産防止共済を積んでいる社長の9割は「積むこと」がゴールになってしまっています。でも本当のゲームは、解約するときにはじまるんです。
まず、倒産防止共済の基本をおさらい
正式名称は「中小企業倒産防止共済制度」。取引先が倒産したときに無担保・無保証で借入ができる共済制度ですが、節税目的で活用している経営者も非常に多いです。
月々の掛金は5,000円〜20万円の範囲で設定でき、年間最大240万円まで全額損金に算入できます。上限は800万円なので、フルに積めば約3年4ヶ月で上限に達する計算です。
利益が出ている年度に積むことで、その分だけ課税所得を圧縮できる。この仕組み自体はよく知られています。
では、積み終わったあとはどうするのか。ここを考えている社長が、驚くほど少ない。
「積んで終わり」が危険な理由
倒産防止共済を解約すると、積立金は「解約返戻金」として戻ってきます。800万円積んでいれば、ほぼ800万円が返ってくる。一見おトクに見えますよね。
ただし、この返戻金は全額が益金(雑収入)として課税対象になります。何も考えずに解約したら、800万円がそのまま利益として計上されてしまいます。
法人税率をざっくり30%と仮定すると、240万円の税負担が発生する。「節税した」つもりが、単なる「先送り」で終わってしまうわけです。
これが「積んで終わり」の社長が見落としていること。出口設計なき積立は、課税の爆弾を育てているにすぎません。
解約タイミングが、すべてを決める
では、賢い出口戦略とはどういうものか。ポイントは「益金を相殺できる年度に解約する」という一点に尽きます。
たとえば、社長が退職するタイミング。役員退職金は損金算入できますから、退職金を支給する年度に解約すれば、800万円の益金と退職金の損金をぶつけて相殺できます。結果として、税負担をほぼゼロに近づけることも可能です。
同じ発想で、業績が落ちて赤字が見込まれる年度も絶好の解約タイミングです。赤字の年に800万円の益金が出ても、相殺されて納税額はほとんど変わらない。積立期間中に節税した効果を、まるごと享受できます。
ひとつ必ず押さえてほしい注意点があります。加入後40ヶ月未満に解約すると、元本割れになります。 掛金を全額回収するためには、最低でも40ヶ月(約3年4ヶ月)は継続することが前提です。短期間で解約しようとする社長がたまにいますが、これは確実に損をします。
上級者は「再投資ループ」を使う
出口設計ができている社長のさらに上を行くのが、解約返戻金を次の節税スキームの原資に回す「再投資ループ」という手法です。
800万円の返戻金を手にしたとき、それをそのまま利益として受け取るのではなく、即座に別の節税商品や設備投資・不動産購入などの大型損金に充てる。こうすることで、返戻金に対する課税を再び先送り、あるいは圧縮することができます。
たとえば、解約のタイミングで大型の設備投資を行い、即時償却や特別償却を活用する。あるいは新たな共済商品や保険商品への乗り換えを組み合わせる。これらを計画的にセットで設計することで、税の繰延効果を何年も継続させることができます。
もちろん、どの商品に乗り換えるか、どのタイミングで設備投資を入れるかは、会社のキャッシュフローや事業計画と連動させる必要があります。思いつきでやると、かえって資金繰りを悪化させることもあります。
今すぐ確認してほしいこと
倒産防止共済を積んでいる社長は、今すぐ以下を確認してみてください。
- 現在の積立残高はいくらか
- 加入から何ヶ月が経過しているか
- 解約を検討すべき年度(退職、赤字見込み)はいつ頃か
- 解約年度に合わせて、どんな損金をぶつけられるか
この4点を整理するだけで、今後の節税設計がかなり変わってきます。漠然と「積み続ければいい」と思っていた方は、ぜひ一度立ち止まって考えてみてください。
倒産防止共済は、仕組みを知らずに使うと「ただの課税先送り装置」になります。でも出口まで設計できれば、800万円という大きな原資を使った本格的な税コントロールが可能になります。
まだ出口戦略を考えていないなら、今期の決算前に一度、税理士と「解約シミュレーション」を走らせておくのをおすすめします。数字を見るだけで、方針がかなり明確になるはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。