先日、製造業を営む社長からこんな連絡が届きました。「決算が終わってから気づいたんですが、税額控除を選んでいれば300万円以上得だったみたいで……」。設備投資の申告を終えたあとの話です。もう取り返しはつきません。

設備投資をするとき、多くの社長が「特別償却か税額控除か」という選択を迫られます。でも、税理士に言われるがまま、あるいはなんとなく「即時償却できるほうがいいだろう」と決めてしまっているケースが実に多い。この選択、実は会社の状況によって数百万円単位で結果が変わります。

赤字の年に特別償却を使っても、節税にならない

まず多くの社長が見落としがちなのが、「赤字の年に特別償却を使っても意味がない」という事実です。

特別償却とは、通常より多くの減価償却費を前倒しで計上できる制度です。ポイントは「前倒し」という言葉。あくまで将来の経費を今期に引っ張ってくるだけで、トータルで払う税金の総額は変わりません。そして、すでに赤字であれば課税所得はゼロですから、いくら経費を積み増ししても税金はゼロのまま。節税効果は一切生まれないのです。

「どうせ赤字だから節税できない年だ」と思っている社長ほど、特別償却を使わずに温存しておく判断が正解になることがあります。特別償却には繰越制度(翌期以降に持ち越せる規定)もありますが、適用できる制度かどうかは事前確認が必要です。

税額控除には「20%の壁」がある

次に見落とされがちなのが、税額控除の上限規制です。

税額控除は、設備投資額の一定割合(制度によって異なりますが、たとえば7%)を、計算した法人税から直接差し引けるという強力な制度です。特別償却と違い「経費の前倒し」ではなく「税金そのものの減額」なので、インパクトが大きい。

ただし、控除できる金額は「その年の法人税額の20%」が上限です。たとえば法人税が100万円しかかかっていない年に、本来200万円分の控除資格があったとしても、使えるのは20万円まで。残り180万円分の控除枠は、一部繰越制度がある場合もありますが、基本的には活かしきれずに終わります。

利益が薄い年に税額控除を選ぶと、せっかくの恩恵を半分以下しか受け取れないケースがあるわけです。

利益3,000万円超なら、税額控除が有利になりやすい

では、どちらを選べばいいのか。ひとつの目安として、「課税所得が3,000万円を超えている年は税額控除が有利になりやすい」と覚えておいてください。

具体的な数字で見てみましょう。5,000万円の設備投資をして、税額控除率が7%の制度を使った場合、控除額は350万円です。これはそのまま税金から引かれます。一方、特別償却で同額の設備を即時償却したとしても、減税効果は「課税所得 × 実効税率」の分だけ。実効税率を約30%とすれば、節税額は1,500万円(償却増加分)× 30% = 450万円ほどに見えますが、これはあくまで「今期前倒しした分」であり、翌期以降は逆に償却費が減って課税所得が増えます。長期でならせば節税額は圧縮されていくのです。

税額控除の350万円は、繰り越しでも何でもなく、今期の税金から丸ごと消える。この違いは非常に大きい。

試算なしで決めるのが、最大のミス

ここまで読んで「じゃあ税額控除一択じゃないか」と思った社長、少し待ってください。

最適解は会社ごとに違います。今期の利益水準、来期以降の業績見通し、適用する制度の種類、さらには他の税務上の状況——これらをすべて加味しないと、正しい答えは出ません。特別償却のほうが有利なケースも、当然あります。

一番避けてほしいのは、「なんとなく」で決めること。設備投資が数千万円規模になれば、選択ひとつで手元に残るキャッシュが500万円単位で変わります。これは経営判断の話であり、単なる税務処理の話ではないのです。

決算の数ヶ月前に、顧問税理士と「今期の利益見込みで、特別償却と税額控除どちらが有利か試算してほしい」と一言伝えるだけでいい。それだけで、何百万円もの差が生まれる可能性があります。

設備投資の計画がある社長は、発注前・購入前の段階で税理士に相談することを強くおすすめします。申告が終わってからでは、もう選び直せません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。