先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。
「税理士に相続税の試算をしてもらったら、自社株だけで10億円を超えると言われて。このまま何もしないと、子どもに数億円の納税義務を残してしまう……」
年商12億円、従業員も50人を超えるしっかりとした会社を作り上げてきた田中社長(仮名)が、初めて「自分の死後」を真剣に考えた瞬間だったそうです。
問題の本質は「会社が成長するほど、税負担が重くなる」こと
オーナー経営者にとって、自社株の評価額は非常に悩ましい問題です。会社の業績が上がれば上がるほど、株価も上がる。本来は喜ばしいことのはずが、相続という文脈では「子どもへの重荷」に変わってしまいます。
田中社長の場合、自社株の評価額は10億円超。相続税率を考えると、最悪のケースでは数億円規模の税負担が子どもたちにのしかかる計算でした。しかも、製造業の場合は会社の資産が設備や土地に固まっていることが多く、「株は相続したけど、納税資金がない」という最悪の事態も十分ありえます。
田中社長が選んだのが「持株会社スキーム」だった
税理士と相談を重ねた結果、田中社長が採用したのが持株会社(資産管理会社)を活用する方法です。
仕組みをシンプルに言うと、「事業をしている会社の上に、株式を保有するだけの会社を一枚かませる」というイメージです。田中社長が直接持っていた事業会社の株式を、新たに設立した持株会社に移転させます。
ここで重要なのが「評価方法の違い」です。事業会社は利益が出ており、純資産も厚い。だから評価が高くなる。一方、持株会社は事業会社から受け取る配当が主な収益になるため、収益力という観点での評価が下がりやすくなります。
結果として、田中社長のケースでは自社株の評価額が10億円から約5.5億円まで圧縮できました。約4.5億円の圧縮効果、率にして45%ほどの削減です。これだけで相続税の負担が数千万円単位で変わってきます。
さらに「役員報酬の分散」と「含み損資産の活用」で追い打ち
持株会社スキームと合わせて活用したのが、役員報酬の分散です。持株会社が設立されることで、後継者や配偶者を役員として報酬を分散しやすくなります。個人の所得税の累進課税を緩和しながら、資産の移転も進められるのは大きなメリットです。
また、会社が保有する含み損の資産を整理し、純資産を圧縮する手法も組み合わせています。評価額の計算に影響する純資産を適切にコントロールすることで、さらに節税効果を高めることができました。
複数の手法を組み合わせた結果、当初10億円超だった課税対象の評価が大幅に圧縮され、子どもたちへの相続税負担を現実的な水準に抑えることに成功しています。
注意点:「設計ミス」は税務否認という最悪の結末につながる
ここまで読んで「うちもやってみたい」と思った方に、一つだけ強調しておきたいことがあります。
持株会社スキームは、正しく設計しないと税務否認のリスクがあります。形だけ会社を設立して実態がない、あるいは租税回避目的が明らかと判断されれば、税務調査で否認されて追徴課税が発生することもあります。
特に注意すべき点を挙げると、
- 持株会社に実態のある経営管理機能を持たせること
- 移転のタイミングや方法が贈与税・みなし配当に影響することがあること
- グループ全体の法人税・消費税への影響も含めてトータルで試算すること
といった論点が絡み合ってきます。表面的な評価額の圧縮だけを見て飛びつくと、思わぬコストが発生することもあるので注意が必要です。
「相続が近づいてから動く」では遅い
持株会社スキームを含む自社株の評価対策は、効果が出るまでに一定の時間がかかります。会社設立、株式移転、評価の安定化……これらをきちんと積み上げるには、最低でも数年単位の時間軸が必要です。
田中社長も「もっと早く動いていれば、もう少し選択肢があったかもしれない」とおっしゃっていました。元気なうちに、業績が好調なうちに、対策を始めることが何より大切です。
自社株の評価額が5000万円を超えてきたら、一度は専門家に相続税の試算を依頼することをおすすめします。「うちはまだ先の話」と思っていた社長が、試算結果を見て青ざめるケースは珍しくありません。今期中に一度、顧問税理士に相談してみてはいかがでしょうか。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。