先日、製造業を営む60代の社長からこんな相談を受けました。「そろそろ息子に会社を渡したいんだけど、税理士に相続税の試算を出してもらったら、とんでもない金額になっていて……」。
試算書を見ると、自社株の評価額が約12億円。相続税は最大で5億円を超える計算でした。「そんな現金、どこにあるんだ」と、頭を抱えておられました。
税務署が自発的に教えてくれない理由
相続税を合法的に圧縮する手法はいくつかありますが、税務署がわざわざ案内してくれることはありません。申告書を提出した後に「こういう方法もありましたよ」と教えてくれる親切な役所ではないのです。
特に見落とされがちなのが、持株会社(ホールディングス)を活用したスキームです。仕組みを知っていれば5億円の差が生まれるのに、知らないまま相続を迎えてしまう社長が後を絶ちません。
持株会社を挟むと何が変わるのか
事業会社の株式を直接保有している状態では、自社株の評価は「純資産価額方式」が適用されることが多く、これが高い評価額を生む元凶になります。
ここに持株会社を1社設立して、事業会社の株式をその持株会社に移転させると、何が起きるか。
持株会社が保有する事業会社株式の評価は、「類似業種比準価額」という方式が使えるようになります。これは、上場している同業他社の株価倍率を参考にした評価方式で、一般的に純資産価額方式よりも大幅に低い評価額が出ます。
結果として、課税ベースとなる株価が数億円単位で圧縮される——というのが持株会社活用の核心です。
「設立したらすぐ効果が出る」は大きな誤解
ここで一つ、非常に重要な注意点をお伝えします。
持株会社を設立しても、翌月から節税効果が発動するわけではありません。税制上、この手法が有効に機能するには一定の時間経過が必要で、実務上は相続が発生する3〜5年前から動き始めることが求められます。
「来年、引退しようかと思って……」という段階から着手しても、間に合わないケースが多いのです。
ある程度の助走期間が必要な制度設計になっているため、「まだ先の話だから」と先送りにしているうちに、使えるはずだった選択肢が消えていく。これが5億の差を生む本質的な理由です。
早く動いた社長と動かなかった社長
実際に相談に来られる方の中には、50代のうちから「将来の事業承継を見据えて持株会社を作っておきたい」と動き出す社長もいます。一方で、60代後半になって初めて「そういえば相続税って……」と気づくケースも少なくありません。
前者は選択肢が広く、税負担を計画的にコントロールできます。後者は、時間切れで高額な相続税をそのまま払うしかない状況に追い込まれることもある。
残酷な話ですが、相続税対策は「気づいた時がスタート地点」ではなく、「間に合う時がスタート地点」です。
まず試算からはじめましょう
持株会社の活用は万能ではなく、業種・資産構成・家族構成によって効果の大きさは変わります。また、設立後の管理コストや、事業会社との契約関係の整理なども必要になります。
ただ、「自社株の評価額が高くて相続が心配」という社長に限って、「まだ先の話」と思っていることが多い。現状を試算してもらうだけでも、打てる手の有無がはっきりします。
もし自社株の評価を最後に確認したのが3年以上前なら、一度税理士に最新の試算を依頼してみてください。数字を見てから、手を打つかどうか判断するのが賢明です。動ける時間がある今のうちに、一度だけ確認しておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。